ダウンジャケットやダウンコートを選ぶ際、品質指標として「フィルパワー」という言葉を耳にしたことはありませんか?
フィルパワーとは、羽毛のかさ高性を示す単位。
ダウンそのもののふくらみや弾力性を数値化したもので、軽さや保温性を知るための指標です。
ダウンの品質=フィルパワーではないものの、優れたフィルパワーを持つダウンは、少ない重量でより多くの空気を含み、暖かさと快適性を提供してくれることは間違いありません。
今回は、プロのファッションデザイナーである私しょる(@SHOLLWORKS)が、フィルパワーの測定基準や、ダウンの選び方、お手入れ方法まで解説します。
ちなみに「ダウン」とは、水鳥のみに生えている羽毛のこと。陸の鳥にはない部分を活用しています。
ダウン選びの一助となれば幸いです。それでは行きましょう!
フィルパワーとは何か?定義や測定方法を解説
フィルパワーは「30gのダウンがどれほど膨らむかを立方インチ(in³)で表した値」
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まず結論から。
フィルパワーは、「30gのダウンがどれほど膨らむかを立方インチ(in³)で表した値」を指します。
という式で算出され、数値が高いほど空気を多く含み、軽くて暖かいダウンに仕上がります。
「フィルパワーが高いダウン」って何が違うの?
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フィルパワー値が高いということは、「同じ重さでももっふもふに膨らむダウン」ということに他なりません。
では、同じダウンでも、もっふもふになるダウンとそうでないものの違いとは、主に
- 全体における「ダウン」の比率
- 成熟している親鳥の羽毛を使用しているか否か
- 「極寒の地域で育ったグース」など、特定の環境や種から採ったダウンか
- 良く洗浄乾燥された清潔な羽毛か
の、4点に集約されます。
全体における「ダウン」の比率
「ダウン(綿毛)」には保形性を確保するために「フェザー(羽毛)」などを混ぜます。
これは、羽毛である「ダウン」だけだと硬さが足りず、特定の部位に綿毛が寄りすぎたり潰れたりして、着るものとして適切な機能やシルエットにならない場合が多いためです。
羽毛布団はフェザーを入れなかったりするのですが、布団は柔らかすぎるので外での着用には向きません。
(尤も、気持ち的には、そうしたい寒い日もあるかもしれませんが笑)
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ただし、フェザーはダウンに比べると“もふ度”が低いため、混ぜすぎると今度はフィルパワーが落ちます。
しかも、フェザーは保温性も低いため、フェザーを入れすぎると、今度は「重くて暖かくないダウンジャケット」になってしまいます。
服飾業界では「ダウン90%/フェザー10%」という比率がベストバランスと言われてたりします。
成熟している親鳥の羽毛を使用しているか否か
また、フィルパワーは、ダウンを提供してくれている水鳥(ガチョウやアヒルなど)の成熟具合にも影響されます。
グース(ガチョウ)やダック(アヒル)の場合、大人の個体の方がダウンボール(綿毛)が大きく弾力性があり、結果としてふくらみが増します。
じっくりと飼育し、大きく成長させたグースやダックは羽毛がしっかり成熟し、質の高いダウンが採れるようになります。
ちなみに、グース(ガチョウ)ダウンの方がダック(アヒル)ダウンよりも、採れるダウンが大きく弾力性があります。
そのため、多くの品種において、グースダウンの方がダックダウンより高価な素材とされています。
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中でも、「マザーグース」と呼ばれる、卵を産む親ガチョウから採れるダウンは総じて高価です。
と、いうのも、親ガチョウの場合は飼育期間が2年~4年と特に長く身体が大きくなるため、ダウンボールも成熟して大きくふわふわになる特徴があります。
一方、量産型の工場飼育では、早期出荷のために短期間で飼育されることが多く、ダウンの品質が劣る場合があります。
特定の環境や種から採ったダウンか
また、同じダウンでも、「どの地域の水鳥か/どんな飼育環境で育てられた水鳥か」も、ダウンの品質を左右します。
具体的には、東欧(特にハンガリーやポーランド)産のダウンが高級とされており、地理的条件や飼育環境、歴史的背景が関係しています。
理由1:東欧は冬の寒さが厳しい地域が多く、ガチョウやアヒルに備わる高品質なダウンを育てるのに適した環境。
- 厚みのあるダウンが形成される:寒冷地の鳥は寒さから身を守るため、密度が高く膨らみの良いダウンを持つ傾向があります。これが、保温性の高さに直結する。
- 自然放牧が一般的:東欧では広大な土地で放牧されることが多く、ストレスの少ない飼育環境が良質な羽毛を生み出します。
理由2:そもそも生息する品種の特性
- ホワイトグース(ハンガリー・ポーランド):羽毛が白く、美しい見た目で軽量かつ保温性が高い。白いダウンは染色しやすいため、特に高級ダウンジャケットに用いられる。
- グレイグース(ロシアや東欧各地):ホワイトグースと比べると若干重いものの、密度が高くて耐久性に優れているため、アウトドア向けに適している。
理由3:伝統的な採取技術と品質管理
- 手摘みでの採取:ハンガリーやポーランドでは、機械ではなく手摘みでダウンを採取することが一般的で、羽毛が傷つきにくく品質が損なわれない。
- 品質基準が厳格:欧州規格(EN Standards)に基づき、ダウンの品質が厳しく管理されている。
といった理由やブランド力によって、東欧産のダウンが高品質(なものが多い)とされています。
ダウンがよく洗浄・乾燥された清潔なものか
そして、「ダウンがよく洗浄・乾燥されて清潔なものか」も重要な指標です。
これは臭いがするダウン(廉価なダウンだと、結構臭いがするものも販売されています)というものがシンプルに嫌という点もありますが、臭うということは、ほとんどの場合油分が残っているということ。
油分がべっとり残っていると、その分ダウンボールのふくらみを妨げ、結果としてフィルパワーの低いダウンになってしまいます。
フィルパワーと「良いダウン」の目安
フィルパワー値 | 特徴 | 活用シーン |
---|---|---|
400~500台 | あまり保湿性が高くなく、やや重め | 日常使い、ライトアウトドア |
600~700台 | 標準レベルで軽く暖かい | 都市生活 |
700~800台 | 上質で非常に暖かい | 本格的な冬のアウトドア、旅行 |
800~900台 | 超高品質。軽量かつ極上の暖かさ | エクストリーム環境、長期使用 |
そして、皆さんがダウンジャケットやコートを選ぶ際、「どのくらいのフィルパワーが目安かにすれば良いのか」という一例が上記の表です。
高数値ほど優れた保温性と軽さを得られますが、価格も高くなります。
もちろん、フィルパワーが異なればグラムあたりの暖かさは変わりますが、1000フィルパワーの極薄ダウンジャケットよりは、800フィルパワーの厚手ダウンジャケットのほうが保温性は高いです。
つまり、単純なフィルパワーの強さだけでなく、「ダウンジャケットの厚みなどの設計そのものや、どんな用途向けに作られているかで暖かさは変わる」ということを念頭に置いてください。
ダウンのメンテナンス方法|フィルパワーを維持するためのお手入れ方法は?
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どんなに高フィルパワーのダウンでも、適切なメンテナンスを怠れば性能は低下してしまいます。
正しい手入れによって、ダウンの膨らみを長期間保つことが可能であるため、基本的なダウンとの付き合い方も学んでいきましょう。
汚れを早めに落とす
これは服全般に言えることですが、汚れはなる早で落とすこと。
ダウンにおいても、汚れや皮脂が付着すると羽毛が固まり、当然ふんわり感が無くなってフィルパワーが落ちてしまいます。
食べこぼしや皮脂汚れなどが気になったら、すぐにやわらかい布やスポンジ、濡らしたタオルで軽く叩くようにして落としましょう。
家庭科の時間で習うレベルの話ですが、重要です。
汚れが広範囲になる前に、即座にケアするのが長持ちのコツです。
洗濯は適切な方法で行う
また、ダウンを自宅で洗濯する場合は、まずは洗濯表示を確認しましょう。
- 「手洗いモード(デリケート洗い)」が使えるかどうか
- 水洗い可能か、ドライクリーニングが推奨されているか
を必ずチェックしましょう。
そして、もし手洗いが可能なダウンなら、
- ダウン専用洗剤または中性洗剤を使用する
- 洗濯機なら「ダウンウェア用コース」や「手洗いコース」を選ぶ
- 他の衣類と一緒に洗わず、単独で洗う
- 脱水は短時間、または極力弱めに行う(長時間脱水は羽毛が偏る原因になる)
といった点を意識しましょう。
もちろん洗濯可能でも不安な方や、ドライクリーニング指定の製品であれば、プロのクリーニング店に依頼するのが安心です。
乾燥はしっかり時間をかける
また、洗濯後にしっかり乾燥させることも重要。そうしないと、ダウンが固まったりカビの原因になったりします。
手洗い・洗濯機から取り出したら、まずはバスタオルなどで水分を優しく吸い取り、その後は風通しのよい日陰でじっくり自然乾燥が基本です。
乾燥途中、何度かダウンを軽く叩き、羽毛の固まりをほぐしてあげると、よりふんわり仕上がります。
また、乾燥機を使う場合は「低温モード」にし、乾燥用のテニスボールや専用の乾燥ボールを一緒に入れると、羽毛が偏りにくくなりフィルパワーを維持しやすいです。
長期保管前には必ず清潔な状態に
オフシーズンにダウンを長期保管するときは、必ず汚れを落としてから収納するのが鉄則です。
分かっちゃいるけど、意外と徹底できない人が多いのがこれです。
- 洗濯をして完全に乾燥した状態にする
- 表面を柔らかいブラシや生地用の粘着ローラーなどで、ほこりをしっかり取り除く
といったことが重要です。
収納の際は、通気性の良い不織布カバーや布袋を使うと、湿気がこもりにくくダウンの状態を保てます。
ビニール袋に入れて保管すると、通気不足や結露によってカビや嫌なニオイの発生につながるため避けましょう。
圧縮しない
分かります。めちゃくちゃしたくなるんですよね、圧縮。
でも「圧縮」はダウンの大敵です。
よくある「圧縮袋」を使ってコンパクトにすると、羽毛が潰されてしまい、かさ高を回復させるのが難しくなります。
基本はハンガーにかけて吊るしましょう。
もし、どうしてもスペースを節約したい場合でも、なるべく軽くたたむ程度にして、しっかり膨らむ余裕を与えてあげてください。
定期的なリフレッシュケアも
シーズン中に着ている間も、ときどき風通しの良い場所で陰干しをするなど、軽く乾燥させる習慣をつけるとフィルパワーが保ちやすくなります。
例えば、日中に着用した後、帰宅時にサッとホコリを払い、湿気を飛ばしてからクローゼットに収納するようにします。
すると、次回の着用時にダウンがふわっとして気持ちよく着ることができますよ。
・・・といったことなどに気を付けて、お気に入りのダウンを大切に愛用してくださいね!
終わりに|フィルパワーを重視し、トータルも重視したダウン選びを
今回は以上です。
フィルパワーは、ダウンにとって重要な要素であることは間違いありません。
フィルパワーが高くて悪いことは基本ないので、可能であれば高フィルパワーのダウンを手に入れたい気持ちは理解できます。
とはいえ、ダウンの出来はフィルパワーだけですべて決まるわけでもありません。
生地やパターン、縫製、バッグなどの内部の造り、そして価格とのバランスなどとも合わせ、そのダウンを選ぶのかをトータルで決めるものだと思います。
どんな用途で、どのくらい見た目や価格、中身、そしてブランドネームを重視するのかは個々人の価値観に依ると思います。
フィルパワーの基準や目に見えない中身の品質について知りつつ、「それだけが全ではない」ということは覚えておいていただけたら幸いです。
おしまい!
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