今の時代、服にお金を掛けるのは「馬鹿」なのか?
停滞する実質賃金、高騰を続けるブランド品、家計という「現実」に対する合理的思考。
それらの理由や背景から、「高いお金を出して服を買うなんて馬鹿らしい」という価値観は大きくなったと思います。
“ハイブラ”の価格を見て驚き、「買えない、買うべきじゃない」という判断から「ユニクロで十分じゃないか。これは賢い選択だ。」と思う人は少なくありませんし、近年ますます加速しているように思います。
一方で、それでも服に心を奪われ、生活を犠牲にしてまでファッションを追求する「ファッション中毒者」は、昔も今も一定数、存在します。
今の時代、服にお金を掛けるのは馬鹿なのでしょうか?
私たちは服にいくら、つぎ込めば良いのでしょうか。
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結論、衣類ではなく「ファッション」は贅沢品であり、少なくとも確かに合理的な選択ではない「馬鹿」かもしれません。
そして同時に、人生は情緒的な価値に触れるからこそ、楽しく彩りが生まれる場面があることも確かなのだと思います。
値上げと品質低下|円安・コスト高と失われた30年
まず、私たちを取り巻く環境として押さえておきたいのは、日本のファッションを取り巻く価格と品質の問題です。
この状況を鑑みて、私たち各々の価値観を整理していきましょう。
日本のファッション産業の「値上げ」
日本のアパレル産業は布地や縫製など多くを海外に依存しており、昨今の円安や原材料高騰により、大なり小なり輸入コストが上がります(円安になると同じ「1ドル」でも払う日本円が多くなるため)。
併せて、原油価格の高騰で輸送費・製造コストも値上がりし、企業側はこうしたコスト増を吸収しきれずに多かれ少なかれ、販売価格を上げるか品質を下げるかの二者択一に迫られています。
実際、多くのブランドが年々と値上げしていますし、これはそこそこ以上の価格のブランドだけの話ではありません。
ユニクロでさえ商品価格の改定を行い、ハッキリ言ってここ数年の品質は頭打ち、下がっているという見方さえできるのが実情です。
「一生モノ」から「一生縁がないモノ」への変化
そして、いわゆるラグジュアリーブランド(ルイ・ヴィトン、シャネル、エルメス、グッチ、プラダなど)は毎年のように値上げを繰り返し、10年前と比べると同じ定番品においても倍以上の価格になっている例もあります。
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かつては「一生モノ」と言われた高級ブランド品も、今や庶民にとっては「一生縁がないモノ」になりつつあります。
しかし皮肉なことに、こうした大幅な値上げが行われても、その商品自体の品質向上が比例しているかというと疑問が残ります。
企業はコスト増に対応するため、高級ブランドでさえ素材や生産工程を見直し、実質的な品質を落として利幅を確保・・・どころか、更なる利益確保へとつながる動きをしています。
某ラグジュアリー・コングロマリットの業績を見ると、製造・小売業にしてとんでもない純利益をたたき出しています。
もちろん、企業の関係者や投資家にとっては嬉しいニュースであっても、消費者がその対価として受け取るものが本当に適切かは再考の余地があります。
(満足していればそれでOKという見方もできますし、「ブランド」という概念に対し学ぶべき点も多々ありますが!)
結果、「安価で大量生産された服」「ブランド力による“とんでもプライス”」の二極が溢れる市場が形成されています。
結果として「本当にモノが良いもの」は一部の高級ゾーン・・・であればまだ分かりやすいのですが、生地やパターン、製造工程に詳しいプロでないと分からないゾーンに追いやられてしまったのです。
シンプルに私たちの購買力が低下している
さらに、私たちの「購買力」の問題も大きいです。
日本は「失われた30年」とも称される経済停滞期を経験し、この先も見通しが暗いこともハッキリ言って確実です。
この約30年間で平均賃金がほとんど上がらずに実質購買力が下がり、相対的に「国民が貧しくなってしまった」影響もファッション市場に暗い影を落としています。
※ただし、日本の富裕層数は未だに世界有数であり、今でも潜在的にとんでもない購買力があることは間違いありません。
賃金が上がらない中でデフレが続いたため、アパレル企業は値段を据え置くか下げざるを得えません。
例えば、その過程生産を海外に移転するなどしてコストカットを進めたブランドの中には、却ってブランドイメージや品質面において信頼感を維持できなくなり、廃止に追い込まれたものもあります。
さらに近年、問題となるのが生活コストの上昇です。「衣」だけでなく、「食」「住」のコストが上がり、さらに「社会保険料」や「税金」の徴収額も確実に上昇しています。
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結果として、いわゆる「上級庶民」ともいえるエリートサラリーマン層ですら、都会に住んで子どもがいて・・・という状況ではハイブランドはもちろん、コンテンポラリーブランドすら手を伸ばすのが難しいケースもあります。
これでは、消費者が服にお金を使うことに慎重になるのも当然です。
「高いお金を払っても、それに見合うだけの価値(クオリティ)がないのでは?」
という不信感と、
「確実に追い詰められる生活コストと賃金上昇のアンバランス」
が、私たちを“ファッションの冒険”から遠ざけているのです。
所得の停滞が、「ファッション予算の縮小」を呼び込んでいる
1995年前後 vs 現在
項目 | 1995年前後 | 現在 | 比較コメント |
---|---|---|---|
平均年収 (会社員) | 約450~460万円前後 国税庁「民間給与実態統計調査」等による当時の名目平均。 | 約440~460万円前後 名目賃金は30年近く大きく伸びず。正規・非正規を全体平均すると約440万円台の年も。 | 1995年頃は実質経済成長が続いていた時期で、名目平均年収は現代とほぼ同等か、やや高めだった。一方、現在は経済低成長の影響などで賃金水準が長期にわたり大きく伸び悩んでいる。 |
社会保険料 (給与からの自己負担) | 年収の約9~10% (40~45万円前後) 厚生年金・健康保険・雇用保険の合計。 当時は料率が低く負担が少なめ。 | 年収の約14~15% (60~70万円前後) 厚生年金・健康保険とも保険料率が上昇。 トータルで1.5倍近い負担増。 | 1995年前後は社会保険料率自体が低く、負担割合が小さかった。現在は高齢化や社会保障費の増大に伴う保険料率上昇で、可処分所得の目減り要因となっている。 |
所得税・住民税 (給与天引きベース) | 年間30~40万円程度 当時の税率・控除を考慮した標準モデル(地域・扶養人数で変動)。 | 年間40~50万円程度 税制改正で控除体系が若干変わり課税所得の計算方式が異なる。 目安として年収の1割前後。 | 1995年前後は税率・控除制度の影響もあり、現代よりもやや低い水準。現在は大幅な増税ではないが、控除の見直しなどで実質的負担は増加傾向にある。 |
手取り(強制天引き後) ※(A1)/(B1) | 約370~380万円前後 (A1) 「平均年収 – 社会保険料 – 所得税・住民税」の大まかな差引。 | 約330~350万円前後 (B1) 同じく「平均年収 – 社会保険料 – 所得税・住民税」の大まか試算。 | 1995年前後の方が手取り額は高めだった。社会保険料率と消費税率上昇の影響で、給与からの天引き後の金額は現在の方が少なくなる傾向。 |
消費税率 | 3% 1997年4月に5%へ引き上げ直前の水準。 | 10%(一部8%軽減税率) 2019年10月より大半が10%。一部食料品等は8%。 | 1995年前後はまだ3%と低率だったが、その後5%→8%→10%へと段階的に引き上げられ、家計への税負担が増大。 |
エンゲル係数 (一般的な世帯) | 約22~24%程度 90年代半ばは比較的低め。食料品価格は今より高い面もあったが、可処分所得に余裕があった。 | 約26~28%程度 コロナ禍で内食需要が増加し上昇傾向。 | 1995年前後は可処分所得の割に食費が占める割合は比較的少なかった。現在は食費の価格自体は場合によって安くなった品目もあるが、可処分所得の伸び悩みや内食化でエンゲル係数は上昇傾向。 |
居住費 (家賃 or ローン) | 年間40~50万円前後 (月3.5万~4万円台) 地域差は大きいが、持ち家率が高くローン金利は今より高め。 | 年間60~80万円前後 (月5万~6.5万円程度) 大都市圏を中心に家賃上昇。持ち家の場合でも税・管理費等の負担増。 | 1995年前後はまだ家賃水準が抑えられていた地域も多かった。現在は都市部で家賃が顕著に上昇し、持ち家の場合も固定資産税や管理費など負担要素が増え、実質的な居住費がかさみやすい。 |
その他生活支出 (光熱費・通信費など) | 年間60~80万円程度 通信費は固定電話・ポケベル・PHS程度で抑えられていた。光熱費は家電の省エネ性能が低い面も。 | 年間80~100万円程度 スマホ・ネット通信費増加。電力料金上昇で光熱費も増。 | 1995年前後は携帯通信インフラがまだ普及途上で、通信費がそこまでかからなかった。一方、現在はスマホやインターネットが日常化し、光熱費も上昇で支出増となりがち。 |
消費税負担 (消費額に対する税率) | 年間5~10万円前後のイメージ 貯蓄率が今より高めで、可処分所得に占める消費の割合が相対的に低かった。 | 年間15~20万円前後のイメージ 消費税率10%がダイレクトに効いてくる。 | 1995年前後は3%(その後5%に上昇)だったが、現在は10%(一部8%)に引き上げられたため、同程度の消費行動でも負担額が大きい。可処分所得から見た負担感は明らかに増加。 |
実質的な可処分所得 ※(A2)/(B2) | 約280~300万円前後 (A2) 「(A1)手取り – 居住費 – 食費ほか主要支出 – 消費税」の大まか差引。 | 約220~250万円前後 (B2) 「(B1)手取り – 居住費 – 食費ほか主要支出 – 消費税」の大まか差引。 | 1995年前後は手取りが多く、消費税率も低かったため、実質的な可処分所得が高め。現在は社会保険料や消費税率の上昇、各種生活費増により、手取り・可処分所得ともに圧迫されがち。 |
※(A2) はあくまでかなり粗い目安です。実際には車の維持費、保険(生命保険・損害保険など)、教育費、交際費、貯蓄などで差異が出ます。
※(B2) も同様にかなり大雑把な推計です。さらに教育費(塾・習い事・大学進学費等)や車両費(ガソリン代・駐車場代・車検等)、保険料などで個人差が大きくなります。
消費者側の“お財布事情”をもう少し深堀りしてみましょう。
日本人の所得は先述の通りこの30年ほぼ横ばいで、実質賃金はむしろ目減りしています。
一方で各生活コストや社会保険料や税負担は増えており、上記の表のとおり可処分所得(自由に使えるお金)は減少傾向にあります。
衣類は「必需品」でも、ファッションは「ぜいたく品」
年度 | 2人以上世帯の月間アパレル支出(※) | 対2000年比 |
---|---|---|
2000年 | 16,800円 前後 | 100% (基準) |
2020年 | 9,100円 前後 | 約 -45.7% |
※総務省「家計調査」における“被服及び履物”の支出(参考数値)
所得が伸び悩む中で真っ先に削られるのは、「なくても生きていけるもの」への支出です。
その典型が(生活必需品の「衣類」を越えた範囲の)「ファッション」です。
総務省の家計調査によれば、日本の1世帯あたり被服・履物への支出額は長期的に減少を続けています。
上記の表の通り、2000年から2020年の20年間で日本のアパレル消費支出は約45.7%も減少し、ほぼ半減しているという、衝撃の統計結果があります。
これは、新型コロナウイルスによる打撃以前から続く傾向であり、
ことなどが、背景にあると指摘されています。
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収入が減れば、衣食住のうち真っ先に衣(ファッション)への出費が削られていく。
その結果が、この20年の衣料消費半減という数字に表れています。
一般の消費者にとって、食費や光熱費さえ値上がりする中で「洋服は安く抑える」のは当然の選択でしょう。
その結果、「ファッション(おしゃれ)」と呼べる領域の消費は、一部お金に余裕のある人たちのものになりつつあります。
極端に言えば、純粋なおしゃれ着は贅沢品になり、その他大多数にとって服はユニフォームのような実用品に近づいているのかもしれません。
同様に、繊研新聞が報じた情報通信のまるての調査によると、「毎月洋服に使えるお金が3000円程度しかない」という人が約半数にのぼりました。
月の洋服代が「3000円以下」と答えた人が49%、「3000〜5000円」が29%、「5000〜1万円」が19%、「1万円以上」はわずか3%だったそうです。
さらに、以前より服に使う金額が「減った」と感じている人は65%にも達しました。
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その主な理由として挙げられたのが「物価上昇による他の支出増や収入減少」でした。
「ファッションへの興味が薄れた」という声以上に、「生活に必要なものにお金がかかり、おしゃれに回せない」という現実的な理由が多かったそうです。
低~中所得者どころか、高所得者の買い控えが大きい
興味深いのは、この衣料品支出の減少傾向が低所得層だけでなく、高所得層にも及んでいるという点です。
第一生命経済研究所の経済分析レポートによると、年収が高く裁量的に使えるお金が多い層であっても衣類支出の減少率が大きいことが報告されています。
このレポートによると、2020年にはコロナ禍も相まって、高所得者層の消費支出の減少率(前年比▲7.4%)は低所得者層(同▲3.7%)よりも大きかったというデータがあります。
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将来への見通しの暗さも相まって、収入にゆとりのある人でさえ財布の紐を締めた、つまり、「稼ぎがあっても無駄遣いはしない」という意識が広がっている可能性が示唆されます。
「日本の見通し」や「気質」がファッションに対する価値観を変えた
この背景には、ファッションに対する価値観の変化もあるでしょう。
バブル期のように「高級ブランド品=ステータス」として競う時代は(総じて)終わり、現在は「身の丈に合った生活をしよう」という堅実志向が強まっています。
特に若い世代は車や持ち家に執着しない傾向が指摘されますが、同様に「服はユニクロで十分」「高いブランド服を買うくらいなら他のことに使いたい」といった声もよく聞かれます。
あるいは、例えばIT業界やベンチャー企業の若手富裕層などは、仕事でもカジュアルな服装が許容される場面が増えたこともあり、高級スーツや腕時計といった伝統的な「高所得者の記号」にあまり興味を示さないケースがあります。
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「服装より成果」「見た目より中身」という価値観が若いエリート層に広がっていることも一因でしょう。
以上のように、そこそこ高年収であってもファッションにお金をかけることは合理的でないと判断する人が増えています。
つまり、高い服を買うことは、
- 実利的な視点
- 社会生活における支障
- 他の自己投資(資格取得や健康増進)や資産形成といった用途
という観点から「馬鹿だ」という考え方はもっともです。
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ファッションは好きだけれど、コストに見合うリターンが感じられない。
そんな「クールな割り切り」が、高所得者層にも広がっている現実があります。
それでもファッションに魅了される人々は、どうすれば良いのか?
ここまで、「服にお金をかけない」方向の話ばかりをしてきました。
しかし世の中には、それでもなおファッションに強烈に惹きつけられる人々が存在します。
合理性だけでは割り切れない「ファッションの魔力」に取り憑かれ、服のためなら多少の無理も厭わない・・・いわばファッションに狂った人たちは、上述した状況にどう接すれば良いかをお伝えします。
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「わかってるんだ、そんなことは。でも、お洒落が好きなものは好きなんだよ!」という方の行動指針になれば幸いです。
ファッションへの「投資価値」を再確認する
まず、服への出費を“単なる浪費”と捉えるのではなく、「何に価値を感じるのか」を明確にすることから始めましょう。
ファッション好きな人にとって、服は「自己表現の媒体」や「情緒的価値の具現」です。
つまり、
- 感情的価値:お気に入りの服を着ていると自信がつく、気分が上がるなど、精神面へのポジティブな影響を大切にする。
- 文化的価値:デザイナーやファクトリーの世界観や歴史、背景に共感し、それを応援する気持ちを持つ。
- コミュニケーション価値:メーカーや同じものが好きな仲間との情報交換や、SNSでの発信を楽しむ。
といった、「世間で言われているステータス以上のメリットが自分にとってあるか否か」という判断軸を持つと良いと思います。
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例えば私の場合、素晴らしいものを作る日本のファクトリーブランドが好きです。
ラグジュアリーブランドで働いていたからこそ、お金を出すならモノまで応援できるブランドを持ちたいなと思っています。
もちろん、マーケティングの力を侮ってはいけませんし、「ブランドの魔力」というものは今もなお根付いています。
「日本人だから日本のブランドを・・・」と、一概に言いたいわけでもありません。
ただ、私たちに与えられた状況を加味すると、今後は「高いから」「海外有名ブランドだから」というような、自己が満たされない写像を、本質的に買う理由としない方が良いのかもしれません。
予算を決め、身の丈に合った買い物をする
どんなにファッションが好きでも、生活を破綻させてしまっては本末転倒というのは、少なくとも皆、頭では理解できている筈です。
まずは自分の可処分所得を把握し、1カ月あたり・1年あたりで使えるファッションへの予算をはっきり決めましょう。
- 収入・支出を見直す:家計簿アプリなどを使い、毎月の固定費や変動費をチェック。
- 貯蓄や投資も考慮:将来に備える資金や、他の趣味・教育などに使うお金とのバランスを取りながらファッション予算を決定する。
- 衝動買いを防ぐ仕組み作り:欲しい服があれば一旦「ほしいものリスト」に入れ、翌月までじっくり考えてから買うなどのルールを設けると効果的。
ただ正直、これは度合いを測ることが難しいです。
例えば、「子どもがいる家庭の稼ぎ頭」が家計バランスを崩してまで服につぎ込むべきではありませんが、「服飾学生」が他の生活を犠牲にしてまで服作りの糧を手にすることは、ある程度意味があることだと思うのです。
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いずれにせよ、破滅に向かわない「良い方に向かう買い物」ができたら良いですね。
二次流通やリユースを賢く活用する
こんな時代にもファッション産業の製造というものは止まる気配もなく、ハッキリ言って服はメチャクチャ余っているのです。
近年はフリマアプリやリサイクルショップ、ヴィンテージショップなど二次流通市場が格段に盛り上がっています。
ハイブランドからデザイナーズブランド、ユニークな古着まで幅広く手頃な価格で手に入れられる機会が増えています。
- フリマアプリ:メルカリやヤフオク!などをチェックし、欲しかったアイテムを相場より安くゲット。
- 古着・ヴィンテージ:新品にはない風合いやレアものを探す楽しみもあり、人と被りにくい。
- アウトレットやセール期間を狙う:シーズン終わりのセールやオンラインアウトレットを覗いてみる。
そしてもう一つ、二次流通(特にフリマアプリやヴィンテージ市場)の意義は、本当に残り、今なお価値を放つ服は何だろうと、市場価格や自己の価値観と照らし合わせることができる点です。
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新品が売れないと産業そのものの根幹に関わるため複雑な心情ではあるのですが、絶えず作られすぎるファッション産業の中で、本当に残したいもの、残るものをチェックすることも「賢い買い物」に意味があることです。
「残すべきもの」と「一時的に手にするもの」を分ける
また、今の時代、洋服は必ずしも所有する必要はないと考えています。
「無地の上質なカットソー」や「長年穿きこなしたいジーンズ」がそれらとは思いません。
しかし、デザイナーズブランドのジャケットやコート、ちょっと試してみたいバッグ類を、1、2シーズンくらいで手放すなら初めから買わなくても良いのです。
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ファッションが好きな人ほど、「思い切って購入したけれど結局使わなかった」という経験が多いものです。
予約・購入のフローから楽しい物であれば話は別ですが、試してみてから買うと「賢くセーブしつつ、ファッションを楽しめる」ことに近付けると思いますよ。
コミュニティを大切にし、情報と情熱を共有する
ファッションに熱中する人にとって、同じ趣味の仲間やSNSでつながるコミュニティは大きなモチベーションになります。
新作情報やコーディネートのアイデアを交換し合うことで、「買う楽しみ」だけでなく「共有する楽しみ」も得られます。
- SNSやコミュニティを活用:好きなブランドやスタイルのタグをフォローし、投稿にコメントしてみる。
- リアルなイベントやポップアップショップに足を運ぶ:店員やファッション仲間と盛り上がることで、実際に生地感やカラーを確かめる機会にもなる。
- 写真投稿やブログで発信する:日々のコーディネートや購入品レビューを発信し、見てくれる人と交流する。
服に関するネットワークが広がると、単に「買う・着る」だけではない豊かな体験が得られます。
「非合理」な情熱と折り合いをつけながら楽しむ
繰り返しになりますが、今の時代に服に大金を注ぐのは、経済的に見れば必ずしも合理的ではありません。
ただし、「何かに熱狂する」こと自体は人生を豊かにする大切な要素です。
私もですし、恐らくあなたも“たまたま”人生を豊かにする対象がファッションだったのでしょう。
- 自分の心が動くものを選ぶ:価格や他人の評価だけでなく、「本当にこれが好きか?」を問うてみる。
- 浪費と投資のバランス:ファッション以外の趣味や仕事、将来設計とのバランスを保つためにも、時に冷静な視点を取り戻す。
- 周りの声に流されすぎない:ファッションに興味が薄い人が見れば「馬鹿らしい」かもしれないが、自分が意味を感じるならばそれで良い。
もちろん、過度な自己犠牲や借金は避けましょう。
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老後のことが心配なら資産運用を優先した方が良いです(私もそうしているので、爺さんになってもお洒落を楽しむためにも)。
あくまで日常生活をきちんと維持しながら、「非合理な情熱」を楽しむのが理想です。
終わりに|服にお金を掛けるのは「馬鹿」なのか?
では、改めて「今の時代、服にお金を掛けるのは馬鹿なのか?」という問いに答えてみましょう。結論から言えば、馬鹿だよ!です。
ここまで見てきた経済状況や価値観の変化を考えれば、年収200万円の人、500万円の人、1,000万円の人、2~3,000万円あっても、子どもがいて家賃や住宅ローンを払いながら東京都心の分譲マンションに住んで・・・という人。
いずれもファッションに大金を注ぎ込むことは多くの場合、合理的ではありません。
それに、円安・物価高で服の値段は上がり、品質は必ずしも向上しない時代です。
ラベルが重要な価値観ならそれで良いのですが、ラベルが品質の信用対価とし敵対しているのであれば「ちょっと待った!」とも言いたくなるのです。
実際、日常生活を送る上ではユニクロやリーズナブルな服で何ら問題なく、無理をして高級品を買わなくても困ることはありません。
しかし一方で、ファッションにお金を掛けることの意義も存在します。
それは、服飾が単なる消耗品ではなく、人間の創造性や自己表現、喜びに関わる文化だからです。
非合理に見えても、そこに自分なりの価値を見出してお金を費やすことは、馬鹿だとしても、少なくても本人にとっては決して「無意味な」ことではありません。
むしろ、自分の情熱を注げるものがある人生は豊かとも言えます。
ファッションに限らず、趣味や嗜好にお金を使うこと自体は、人間らしい営みのひとつではないでしょうか。
こういう表現をするとネガティブに聞こえるかもしれませんが、もちろん当人たちにとってファッションは「狂う」ほど夢中になれる大切な趣味であり、生きがいです。
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私自身、その片棒を担いでいるからこそよく分かります。
だからこそ、難しいことは分かっていても、先述のような基準やTIPSをこなしつつ、なるべく触れてみてほしいのです。
確かに、多くの人から見ればファッションに大金を注ぎ込むのは理解しがたいかもしれませんが、それは他の趣味にも通じる話です。
例えば高級車やバイクに夢中になる人、最新のPCやカメラに散財する人、アイドルや推しに貢ぐ人・・・。
何かに情熱を燃やす人は皆、外野から見れば「非合理」な行動をとっているものです。
「好きな服を着ている自分」でいることで得られる高揚感や自己肯定感は、他の何にも代えがたい価値を持っています。
そしてファッションもまた、人によっては心を狂わせるほど魅力的な世界なのです。
おしまい!
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