革靴の世界にハマったあなたへ。ブランドの知名度だけではない、ハンドメイドで本当に高品質なNo.1既製靴ブランドはいかがですか?
こんにちは、しょる(@SHOLLWORKS)です。本日はヴァーシュ(VASS SHOES)という、ハンガリー・ブダペストのブランドをご紹介します。
ヴァーシュは一昔前に発行された某靴雑誌にて、業界で有名な靴職人の方に「世界一の既成靴」と言わしめたブランドです。
知らないメーカーもあるので何とも言えない部分はありますが、極めて高い品質を誇ります。よく、英国のトップブランドが憧れのポジションとして紹介されがちですが、「作りは明確にヴァーシュの方が上」と断言できます。
ヴァーシュ(VASS)のクオリティやカッコ良さ、魅力は、既成靴の中でNo. 1候補であることは間違いありません。
そこで本日は、プロのファッションデザイナー&革靴大好きマンの私が、ヴァーシュというブランドと代表的モデル&ラストを紹介します。
また、後半の別記事リンクでは、実際に手持ちのヴァーシュの紹介や、ハンガリーから個人輸入の方法もレビューしています。
ヴァーシュは個人的にも最も好きな既成靴ブランドのひとつです。それではいきましょう。
ヴァーシュ(VASS)ブランド&革靴の特徴は?
ヴァーシュはハンガリー・ブダペストのシューズ工房
Image Photo by VASS
ヴァーシュ(VASS)は1978年、ラズロ・ヴァーシュが設立した東欧ハンガリー・ブダペストのシューメーカー。
高級紳士靴といえば英国や米国、イタリアなどが有名です。比して、東西冷戦時における“東側諸国”の工房は、多くが謎に包まれていました。
実際、中東欧のシューメーカーは、ブランドとして日の目を見た工房はほとんどありません。アッパーに使える良質な牛革を自国では確保できず、さらにインフラの遅れから機械生産体制を確立したところが極端に少なかったことなどが理由。
しかし、ヴァーシュは西欧の一流タンナーから革の供給を受けられていたことから、当時から知る人ぞ知る存在だったようです。
ヴァーシュの情報は冷戦後、少しずつ日本にも入るようになりました。
00年代には、ヴァーシュとフィレンツェの世界的ビスポークシューメーカーであるロベルト・ウゴリーニを、大手百貨店の伊勢丹が結びつけたトリプルコラボレーションが実現しました。
以来、ヴァーシュは日本市場においても「最高峰の既成靴メーカー」として認知され、英国靴とは違った魅力を求めるニッチなユーザーにも愛されてきました。
既成メーカーで高い革質&フルハンドソーン(10分仕立て)を実現している
ヴァーシュの特徴としては、
- 既成靴メーカー
- 底付けが10分仕立てのハンドソーン・ウェルテッド製法かつ、木型の最限度が非常に高い
- 欧州の有名タンナーからハイグレードの革を供給されている
上記すべてを満たすメーカーであることが挙げられます。
しかも、既成靴でこれらを全て満たすブランドは基本的に存在しません。
もちろん、ビスポークメーカーであれば、一流の革を使用したフルハンドソーンウェルテッド製法のシューズは製作可能です。
しかし、オーダーメイドならば低く見積もっても30万円台、高名なブランドなら4、50万円~の販売価格である場合がほとんど。
その点、ヴァーシュは人件費が高くない国のプロダクトだからこそ、非常に良心的な価格設定です。国内販売価格こそ16万円程度ですが、公式オンラインストアであれば400ユーロ余の破格で購入可能です。
グッドイヤー・ウェルテッド製法では追求できない造形の奥深さ
と、思われる方もいらっしゃると思います。
しかし、グッドイヤー・ウェルテッド製法がハンドソーン・ウェルテッド製法に機能性で勝る点は、生産効率以外にはありません。
もちろん、生産効率の追求はブランド商品の普及に極めて重要ですし、会社の経営を支えるためには重要な要素です。しかし、“ソールの返り”以外にも「木型の再現度」に差が生まれます。
最も差が生まれる部分が「履き口周りの造形」。
これは、ほとんどのグッドイヤー製法の靴が木型に入れたまま、機械でつり込み成形を行うことで生まれる差です。
上記の動画は、“英国靴の王”といわれるジョンロブの製作現場です。
2分10秒あたりからご覧いただければと思いますが、“シュパッと”機械でアッパーの形を整えて成形していますよね。
さらに、踵の処理、ウェルトのリブへの縫合、底付け工程まで、ずっと黄色の木型に入っています。三陽山長のようにグッドイヤー製法×吊り込みだけ手作業のメーカーもありますが、ほとんどがこの仕様です。
一方、ハンドソーンウェルテッド製法の多くは、手作業でつり込みから底付けまで作業を行います。
結果、ハンドソーンウェルテッド製法の中には、機械式では難しい立体感まで実現しているものがあります。
具体的な工程としては、つり込みの際にワニ(型のペンチ)で革を入念に引っぱり、踵やつま先といったカーブのきつい部分には多く釘を打つことで忠実に木型に添わせる。
アッパー全周を釘で留めて内側に倒し、すくい縫いを行う際に抜いていきます。
もっとも、ヴァーシュの靴に掛けられている手間暇が「異常レベル」とも言えます。上述の過程はあくまで「技術的に可能」と言うだけで、「ハンドソーンウェルテッド製法=どんなブランドでも立体的」というわけではありません。
写真は、今回ご紹介するヴァーシュの踵部分を撮影した私物です。
ヴァーシュの踵から履き口へ向かう部分の内側は“ひょうたん”のような形状をしており、外側は踝部分まで人間の足形に面でフィットする形状をしています。
革靴愛好家の方なら、これが既成靴であることに驚かれるのではないでしょうか。
一方、上の写真はジョンロブのプレステージライン。
ヴァーシュと比べて、“ぼってりとした”ワイングラスのようなカーブになっています。この形状だと、多くの人の踵には面でフィットしません。
もちろん、グッドイヤーウェルテッド製法の中では出来の良い部類の靴ですが、それでも踵とくるぶしの間部分にあたる履き口周りのフィット感が甘くなり、靴擦れなどの原因にもなります。
こういった細かな点が、生産性重視の一発成型では木型を忠実に再現できない部分。シューキーパーを入れたままの機械成型する靴は困難な部分です。
ヴァーシュ(VASS)の代表的なモデルをご紹介!
続いては、ヴァーシュの代表的モデルを紹介します。
ヴァーシュの靴は基本的に、都市名や国、○○人などといった名称がモデル名になっています。
Budapest(外羽根フルブローグ)
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Budapest(ブダペスト)は、ヴァーシュの本拠地でもあるハンガリーの首都の名を冠したモデル。ノルヴィージャン・ハンドソーンウェルテッド製法で底付けされた、外羽根フルブローグと呼ばれるタイプの靴です。
外羽根フルブローグ×BPラストの組み合わせは、まさしく“ブダペスト靴”そのもの。いわゆる東欧靴は、西欧靴と比べて全体的につま先が“ぽってり”としているという特徴があります。
比較的スタイリッシュな木型でも作られる一方、BPラストや3636ラストといった「ハウスラスト」と呼ばれる伝統的な木型でも販売されています。フォーマルではないスーツやカジュアルなセットアップ、デニムにも合う靴です。
- Budapest を展開しているラスト
- Fラスト
BPラスト
3636ラスト
P2ラスト
Alt English/Alt English Ⅱ(内羽根ストレートチップ/セミブローグ)
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Alt Englishは、紳士靴の基本となる内羽根ストレートチップのモデル。ダークスーツはもちろん、シャドーストライプやピンヘッドにもよく合う靴です。
ストレートチップは、誤魔化しが効かない靴のひとつです。ヴァーシュのように造形から細部の仕様に至るまで、高い技術力で作られた靴は、どんなフォーマルシーンやビジネスの場でも恥ずかしくない一足です。
各切り替え部分の「カールエッジ」をアピールもすることもなく、ひっそりと採用しています。この点も、内羽根ストレートチップでは目立つ「差」の部分です。
- Alt English を展開しているラスト
- Fラスト
Uラスト
P2ラスト
Image Photo by VASS
ちなみに、Alt English Ⅱという切り替えデザインが異なるモデルも販売されています。
サイドの縫い合わせ部分のデザインが異なり、ストレートチップの他に内羽根クォーターブローグのモデルもあります。
私は、通常のAlt Englishしか所有しておりませんが、こちらもカッコいいですね。
- Alt English Ⅱを展開しているラスト
- Fラスト
Kラスト
London 5-eyelet/London 3-eyelet (外羽根プレーントウ)
Londonは、5アイレットおよび3アイレットの外羽根プレーントウ。
それぞれ、紐を通す穴の数(アイレット)が、5つか3つかの違いがあります。
London 5-eyelet
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London 5-eyeletは、いわゆる外羽根プレーントウです。
コーディネートの面でも幅広く対応する、無地やストライプのシャツやスーツからジャケパンスタイルまで対応する優等生です。
- London 5-eyelet を展開しているラスト
- Fラスト
Kラスト
London 3-eyelet
Image Photo by VASS
一方、London 3-eyeletは、外羽根プレーントウの中でもドレス感あるVフロントプレーントウと呼ばれるもの。
近年発売された、非常に高い人気を誇るモデルです。ダークスーツとの相性も抜群&脱ぎ履きがしやすいので、日本の居住環境にもピッタリの靴です。
- London 3-eyelet を展開しているラスト
- Fラスト
Sラスト
Itarian Oxford(内羽根ウィングチップ/クォーターブローグ)
Image Photo by VASS
Italian Oxfordは内羽根のブローギングシューズ。エレガントなアデレード(琴)型のクォーターブローグやフルブローグを展開する、イタリアらしい色気のあるモデルです。
写真のUラストやKラスト等、全長が普通~長めのスタイリッシュなラストで展開しています。いずれも、ロベルト・ウゴリーニとのコラボレーションによって誕生した木型が用いられています。
- Italian Oxford を展開しているラスト
- Fラスト
Uラスト
Kラスト
Norweger(Uチップ)
Image Photo by VASS
Norwegerは「ノルウェー人」を意味するUチップ。
ジャケパンやデニムなどと合わせてもOKな、スーツに“抜け感”を演出してくれるカジュアルな靴です。
展開はPラストのみ。ヴァーシュの中では踵が緩めでウィズが広めなタイプです。
- Norweger を展開しているラスト
- Pラスト
Wholecut 5-eyelet/Wholecut 6-eyelet (ホールカット)
Wholecutは名前の通り、一枚革で製作されたホールカットの靴。
ヴァーシュのように、アッパーが立体的なメーカーのホールカットは良さが際立ちます。ストレートップや3アイレットのプレーントウ、“ブダペスター”同様にオススメのモデルです。
Wholecut 5-eyelet
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Wholecut 5-eyelet は、FラストとP2ラストという2大中庸ラストで展開。ダークスーツやタキシードといった格好にも良く合います。
- Wholecut 5-eyelet を展開しているラスト
- Fラスト
P2ラスト
Wholecut 6-eyelet
Image Photo by VASS
一方、Wholecut 6-eyelet はSラストという、非常にロングノーズのラストを使用した一足。
異色のラストで、購入の際は注意が必要です。
- Wholecut 6-eyelet を展開しているラスト
- Sラスト
ヴァーシュの木型(ラスト)についてご紹介!
続いて、ヴァーシュの代表的ラストと特徴について解説します。
ヴァーシュは、日本では店頭販売がほとんどありません。そこで、下記のラスト全て所有&試着したことのある私が、表にまとめて個別に解説しました。
個人的な感覚ですが、ヴァーシュのラストは全体的に、写真の一の甲&履き口が高めだと思います。
多くの方にとっては、サイドウォールの立ち上がりと二&三の甲で優しく吸い付いてくれます。また、既成靴とは思えないヒール周りの掴みでフィットしてくれることが特徴です。
その他、踵のホールドに関してはPラストだけは若干弱め。あとは同程度のホールド感です。
ラスト毎のサイズ感を表にまとめてみました!
ラスト | マイサイズ | つま先 | ノーズ | 足幅 | 甲の高さ | 履き口 | アーチ サポート | ウエスト |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
Fラスト | 42.5 | クラシック | ミドル | 標準 | 標準 | 標準 | 標準 | 標準 |
FBラスト | 42.5 | クラシック | セミロング | 標準 | 標準 | 標準 | やや強め | やや細め |
Uラスト | 42.5 | セミスクエア | セミロング | やや細め | 低め | やや低め | やや強め | やや細め |
Kラスト | 43 | チゼル | ロング | 細め | 低め | 標準 | 強め | 細め |
Sラスト | 43 | スクエア | とてもロング | 細め | 高め | 低め | やや弱め | かなり細め |
BPラスト | 42 | ぽってり | ショート | やや広め | 標準 | 低め | 標準 | 太め |
3636ラスト | 42 | ぽってり | ショート | 広め | やや高め | 標準 | やや弱め | 太め |
Pラスト | 42 | ラウンド | ややショート | やや広め | 標準 | 低め | やや弱め | 太め |
P2ラスト | 42 | ラウンド | ミドル | 標準 | やや低め | 低め | 標準 | やや太め |
Rラスト | 42 | ラウンド | ややショート | 標準 | やや高め | 標準 | 標準 | やや太め |
ちなみに、私の足形は人差し指の長いギリシャ型。踵~人差し指の先端までが27.5cm、親指までが27cmで足幅の一番長い部分が10cmです。甲も足幅もサイズに対して標準的~やや細め程度で、あまり特徴がありません。
スタンスミスで27.5cm、クラークスのデザートブーツやワラビーでUK8.5(US9)、チャーチの173で85F、チーニーの137ラストで8.5、ジョンロブの7000も8.5、スコッチグレインのオデッサやインペリアルは26.5E、リーガルが26.5cm、その他大体の英国靴で8.5Fサイズといった具合です。
購入を検討する際の参考にしていただけたら幸いです。
Fラスト(クラシック・ミドルノーズ)
採用モデル | ||||||||||
モデル名 | Alt English | Alt English Ⅱ | Budapest | London 3-eyelet | Italian Oxford | Single Monk | Double Monk | Slipper I. | Chukka boots | Valway high boots |
オススメ度 | (5.0 / 5.0) | (4.5 / 5.0) | (4.0 / 5.0) | (5.0 / 5.0) | (4.0 / 5.0) | (4.5 / 5.0) | (4.0 / 5.0) | (4.0 / 5.0) | (4.5 / 5.0) | (5.0 / 5.0) |
Fラストは、人気No.1の中庸&標準的なラスト。元々は、先述のヴァーシュ×ロベルトウゴリーニ×伊勢丹のコラボレーションによって誕生した木型です。
英国的なクラシックさを感じさせるラウンドトウで、エドワードグリーン「202ラスト」のつま先に、少しだけラウンド感を加えたようなシェイプです。
一の甲部分は標準的で、サイドウォールで包み込まれつつ足の指は窮屈になりません。二の甲&三の甲は優しく包み込まれ、ヒール周りやサイドウォール全周も適度に当たるフィット感を提供してくれます。
FBラスト(クラシック・ややロングノーズ)
採用モデル | |
モデル名 | Bond Oxford |
オススメ度 | (4.0 / 5.0) |
FBラストは、Fラストを若干ロングノーズ&ウエストを細くしたラスト。概ね、Fラストと同等の感覚ですが、アーチサポートは若干強めに感じます。
クラシックなラウンドトウを求めつつ、スタイリッシュさを求めたい人にオススメ。ロベルトウゴリーニとのコラボレーション時に展開した木型をモディファイしたラストです。
展開モデルは少なく、現在は「Bond Oxford」という内羽根プレーントウのモデルのみ。
Uラスト(セミスクエアトウ・ややロングノーズ・やや甲低)
採用モデル | ||||
モデル名 | Alt English | Italian Oxford | Budapest Oxford | Slipper IV |
オススメ度 | (5.0 / 5.0) | (5.0 / 5.0) | (4.5 / 5.0) | (4.5 / 5.0) |
Uラストは、セミロングノーズ×セミスクエアトウの人気ラスト。名称は、ロベルト・ウゴリーニ(Ugolini)の頭文字に由来します。
Fラストと比べて一の甲がやや低い&足幅もやや狭めです。比較的スタイリッシュな木型で、全体的にやや細身の足形の人向けの木型です。
サイズ感はFラストと同等か、僅かにきつめ。アーチサーポートが強め&甲がやや低めに設定されています。甲がやや低めの人/幅狭の方であれば、Fラストと同サイズでいけると思います。一方、甲が低くない方/足幅があるという方は、ハーフサイズアップすると良いでしょう。
Kラスト(チゼルトウ・ロングノーズ・甲低)
採用モデル | ||||
モデル名 | Alt English II | Balmoral Oxford | Italian Oxford | West |
オススメ度 | (5.0 / 5.0) | (5.0 / 5.0) | (4.5 / 5.0) | (4.0 / 5.0) |
Kラストは、Uラストのノーズをさらに伸ばし、ウエストを細くした木型。つま先もチゼルトウといって、絶壁のようにカクンと垂直に落下するような形状になっています。
足幅が細く一の甲&ニの甲が低いため、足が薄く細い方向けのラストです。
いわゆる「甲高幅広」の方には向きません。また、アーチサポートが強めのため、つま先が滑り込まず外反母趾になりにくいことも特徴。
私の場合42.5サイズでは割ときつく感じました。外羽根ならいけなくもないのですが、43サイズにしています。
Sラスト(細身・かなりロングノーズ・甲高)
採用モデル | |||
モデル名 | London 3-eyelet | Double Monk | Wholecut 6-eyelet |
オススメ度 | (4.0 / 5.0) | (4.5 / 5.0) | (4.5 / 5.0) |
Sラストは、ヴァーシュの中で最も細身&ロングノーズなラスト。一方、甲は高めという特徴を持っており、まさに典型的なラテン系の足形向け。
Sラストは、足幅が普通~幅広の人には合いません。アジア系でも足幅も細い方もいらっしゃいますが、ウエスト部分もガッツリ細く、アーチサポートも弱いです。
私は、43サイズでも若干キツく小指部分が痛かったです。多くの日本人には難しいラストだと思いますが、目安として「プーマキング」など、細いスニーカーが合う方にはオススメの木型です。
今まで紹介してきたラストは、ロベルトウゴリーニとのコラボレーションによって誕生したもの。ここから紹介する「ハウスラスト」は、元々ヴァーシュが持っていた伝統の木型です。
BPラスト(ラウンドトウ・幅広・甲低)
採用モデル | ||
モデル名 | Budapest | London 5-eyelet |
オススメ度 | (5.0 / 5.0) | (5.0 / 5.0) |
BPラストは、いわゆる東欧靴を体現するラスト。
つま先は“ポッテリ”なラウンドトウのショートノーズで、ヴァーシュ伝統の「ハウスラスト」です。
アーチサポートも良好、甲の高さはやや低め~標準で足幅が広めの方にピッタリ。その分、履き口が低く、二の甲&三の甲および踵のホールド感はしっかりとしています。
3636ラスト (ラウンドトウ・幅広・甲高)
採用モデル | |||
モデル名 | Budapest | Budapest (Shell Cordovan) | Theresianer |
オススメ度 | (5.0 / 5.0) | (5.0 / 5.0) | (4.5 / 5.0) |
3636ラストは、BPラストの甲を高く&ウィズをさらに広く、履き口をFラストと同程度にした木型。
いわゆる“幅広甲高”の方に最も適したラストで、非常にコンフォートな一足です。
東欧靴の魅力を前面に出しつつ、さまざまなシチュエーションに幅広く対応してくれます。こちらも、フルブローグのBudapestの展開が中心ですが、外羽根ストレートチップの展開もあることが特徴。
単に「良い靴が欲しい!」という方だけでなく、足の悩みが多い方にも試してほしい木型です。「色々なブランドを試したけれど踵は抜けるし靴擦れするし、小指は痛いし・・・」といった悩みにピッタリのラストです。
Pラスト(ラウンドトウ・ショートノーズ)
採用モデル | ||
モデル名 | Slipper | Norweger |
オススメ度 | (4.0 / 5.0) | (5.0 / 5.0) |
Pラストは、ヴァーシュの中で最もショートノーズの木型。ラウンドトウの足幅は広めで甲の高さは標準程度、そして、他のラストと比べると踵のホールドが若干緩めです。
ローファー自体が靴紐なしで脱ぎ履きしなければならないため、構造上どうしても踵を緩くする必要があります。
短距離の移動なら問題ありませんが、こればかりはローファーそのもののに課された宿命です。
個人的には、UチップのNorwegerが好きです。大人のオフやカジュアルなスーツとの相性も◎。
P2ラスト (ラウンドトウ・ミドルノーズ・甲低)
採用モデル | ||||||||
モデル名 | Alt English | Alt Wien | Budapest | Budapest (Shell Cordovan) | Budapest high boots | London 5-eyelet | Theresianer | Wholecut 5-eyelet |
オススメ度 | (5.0 / 5.0) | (4.0 / 5.0) | (5.0 / 5.0) | (5.0 / 5.0) | (5.0 / 5.0) | (4.5 / 5.0) | (5.0 / 5.0) | (4.5 / 5.0) |
P2ラストは、東欧靴のエッセンスとスタイリッシュさを両立した秀逸なバランスの木型。Fラストと比べ、ウィズがやや広いラウンドトウ&一の甲が低いことが特徴。
東欧靴らしいブローギングシューズはもちろん、内羽根の展開もあるためビジネスや冠婚葬祭にも適しています。
また、Budapest high bootsはP2ラストのみの展開されています(カスタマイズをしない場合)。
上述のラスト比較表では、ノーズを「ミドル」と記載しました。
私のように甲が低い方はFラストに比べ、ハーフサイズ程度下がる分ショートノーズになるとご理解ください(甲が標準~高めの方は同サイズが◎)。
Rラスト (ラウンドトウ・ややショートノーズ・甲高)
採用モデル | |
モデル名 | Budapest Oxford |
オススメ度 | (4.5 / 5.0) |
最後にRラスト。Fラストと比べてややノーズを短く、足幅を広げて甲を高く、よりラウンドトウにした木型。
3636ラストよりはシャープで、英国的なエッセンスを残しています。また、Fラストと比べ一の甲は同等ですが、二の甲&三の甲が高い、甲高幅広さん向けのラストです。
展開はBudapest Oxfordのみ。甲高幅広でシャープな靴は合わないけれど、色気もある靴が欲しいという方にはピッタリです。
で、ヴァーシュの靴は履いていてカッコいいの?
結論、ヴァーシュの靴は、履いていてめちゃくちゃカッコいいです。
もちろん、個人の価値観はありますが、少なくともハイブランドのでデザイナーとして働けた私基準でも「めちゃくちゃ良い」です。
「程よく手縫い感がありながら、キチンと作られている点」がブランド力&生産性重視のグッドイヤー・ウェルテッド製法による既成靴と比べて、ワンランク上の奥深さを感じさせてくれます。
確かに、チャーチやエドワードグリーンのように、履いていてモデル名で声を掛けられることはないと思います。ヴァーシュの場合は、ビスポークシューズと同様に造形的に注目される靴ではないでしょうか。
スーツと革靴に関しては、ブランドネームよりも「作りが良い=品質の高さ」を重視した方が良いと思います。
もちろん、既成靴ですので「絶対に誰の足にも合う!」とは言えません。
しかし、可能性としても実際の構造も、1ランク上回っていることは間違いありません。
ヴァーシュ(VASS)の店舗は?個人輸入&実際に届いた靴をレビュー!
【取扱店舗】伊勢丹でかつて取り扱いがあったが・・・
ヴァーシュは10年程前まで、伊勢丹メンズ館などで8万円程度で購入可能でした。
また、現在も小規模なセレクトショップなどでも取り扱いがありますが、さまざまなモデルやサイズのバリエーションを確保できているところはほとんどありません。
正直、「あの時にもっと買い溜めしておけば良かった・・・」と思わざるを得ません。
メンズ館は靴の“格”で販売するコーナーに差を設けているのですが、ヴァーシュはジョンロブ、エドワードグリーン、シルヴァノラッタンジといった“最高ランク”として陳列されていたことが、知名度や価格を越えた評価を物語っています。
しかし、現在では伊勢丹でも取り扱いがなくなり、国内販売価格もカーフレザーのモデルで16万円程度と、他の靴ブランド同様に高騰しています(それでも競合ブランドと品質を比べれば、2倍してもおかしくありませんが!)。
とはいえ、可能な限り、お得に購入できるに越したことはありません。
物流がグローバル化した現在、ヴァーシュは公式オンラインストアから個人輸入が可能な上、価格はシューツリーや送料込でなんと8万円余。
ハンガリーの物価を考慮しても、あまりに破格過ぎる価格設定です。
ヴァーシュ(VASS)個人輸入!ハンガリーから購入方法を解説!【詳細画像あり】
というわけで、公式オンラインからの個人輸入が、最もリーズナブルにして確実な入手手段です。
しかし、ヴァーシュのHPは日本語版がないため、上記記事では英語が読めない人でも安心してご購入いただけるよう図説付きで解説しました。
続いては、手持ちのヴァーシュを順次ご紹介します。
ヴァーシュ(VASS)London3-eyelet Fをレビュー【プレーントウ】
上記記事では、ヴァーシュの大人気モデルLondon3-eyelet×Fラストの靴をレビューしました。
3アイレットのプレーントウで、靴を上から見た際に外羽根がVの字を描くことから「Vフロント」といわれるタイプの靴です。
外羽根ながら別格のドレス感があり、濃色×無地やシャドーストライプなど、ビジネススーツの中で比較的フォーマル殿高いスーツと相性抜群です。
木型はヴァーシュの中でも最も中庸的なFラスト。踵も小さいので、多くの日本人にもオススメの試しやすいラストです。
まとめ|ヴァーシュの良い点・今ひとつな点
【良い点①】とにかく作りとフィット感が抜群
ヴァーシュの作りやフィッティングに関しては、英国の機械式のグッドイヤーウェルテッド製法と比べても明らかに一段階上です。
ジョンロブやエドワードグリーン、チャーチといった有名ブランドと比べてもヴァーシュの方が勝っていると思います。
それなりに知名度がある既成靴で、ソールの出し抜いまでハンドソーンで行うブランドは、数えるほどしかありません。その分、ブランドとしての格や知名度はどうしても劣るため、何を重視するかでも評価は大きく変わります。
「作り込み」は、生産量やコストとトレードオフの関係性があります。丁寧に作れば作るほど生産量は低下し、世に出回る数は限られます。
だからこそ、有名ブランドの既成靴は、グッドイヤーウェルテッド製法が多いのです。
【良い点②】東欧靴的なモデルやラストだけではない、多様性がある
ヴァーシュは、多様なラストを展開している点も魅力です。東欧靴らしい雰囲気のラストと、西欧的な雰囲気のラストを併せて展開している珍しいメーカーです。
BPラストや3636ラスト、P2ラストは、いずれも東欧靴的な魅力を放ち、典型的な英国靴やイタリア靴とは異なる雰囲気を持っています。
一方、ロベルト・ウゴリーニとのコラボレーションからスタートしたFラスト、Uラスト、Kラストといった木型は、ハンドメイド感を残しつつ、それまでの東欧靴とは一線を画す“カッコよさ”を与えてくれました。
いずれにせよ、ヴァーシュは東欧靴のアイデンティティや良さも保持しつつ、“カッコよさ”の面でも非常に優れています。
【良い点or悪い点?】全体的な雰囲気はやや柔らかく、“手縫い靴感”が現れている
一方、ハンドメイド感が、日本市場では受け入れられないケースが多いのは事実です。
スーツやシャツにも全く同じことが言えますが、「そこが良いんだ!」と思う人もいます(私もそのタイプです)。
実際、ヴァーシュはアッパーの縫製などは非常に細かく丁寧ですが、ソールのドブ起こし(地面との接地面の出し縫いを隠す際に入れる切れ込み)やメダリオンなど、“結構ざっくりしている”部分があることも事実です。
左右対称で正確な縫製を求めるなら、日本製がNo.1です。
あるいは、洗練されたブランドイメージなら、英国やイタリアのトップブランドが勝ると思います。この辺りは、個人の好みが分かれる部分ではないでしょうか。
ヴァーシュの良さは「ハンドメイド感」と足へのフィット感。スーツと同じく、革靴もハンドメイドであることに機能的価値はあります。
靴の作り込み&独自の世界観が、長所と思える人のためのブランドではないでしょうか。
巷で稀に指摘されるヴァーシュの「革質イマイチ説」について
「ヴァーシュの革質がイマイチである」という説については、個人的には、ヴァーシュの革質は良い方だと思います。
革質に関しては事実、ガジアーノ&ガーリングやシルヴァノラッタンジに使われるような革の方が上です。しかし、ヴァーシュを今まで何足も購入し、何十足も見てきた身としては、「この革はヤバい!」というものが使われているのを目の当たりにしたことはありません。アッパーに限らず、ソールやライニングも良質な革だと思います。
残念ながら、今はジョンロブですら革質の個体差が大きい時代です。店頭販売品のトウが革割れを起こしている最高峰ブランドも珍しくない中、「間違いなく良い方である」ということはお伝えさせてください。
手持ちのヴァーシュ(現在6足)を見ると、アッパーに牛の血筋がうっすらと残っているものはあります。
そして、現行品よりも緑箱時代の「旧ヴァーシュ」などの方が、革質が高かったことも事実です。
ちなみに、写真のカーフは色・艶・透明感いずれも十分すぎる程の靴。シェルコードバンも(オールデンなどと比べれば)色ムラが少ないです。
終わりに|ヴァーシュ(VASS)は、一足は買ってほしい既製靴メーカー
今回は以上です。
ヴァーシュは“知る人ぞ知るブランド”。
現状、愛用されている方は決して多くないと思います。
「ブランド力」は国の経済力などに依存する性質もあるため、私たちはどうしても、国産や英国、イタリアのブランドへ嗜好が行きがちでもあります。
しかし、ヴァーシュは破格かつ最高峰のクオリティを誇る既成靴であり、生産国など関係なく良いものは良い。
もっと、愛好家が増えても良いブランドではないでしょうか。
既成靴は、足の形との相性もあるため、どんなモデルでも、誰にとっても合うものは存在しません。
しかし、ヴァーシュはご紹介の通り、木型・モデル共にバリエーションが豊富。あなたにとって素敵な一足を見つけられる可能性は高いと思います。
もちろん、他のハンドソーンのブランドに関しても、魅力的なブランドは存在します。
ただ、シルバノラッタンジは「工芸品」という領域に突入していますし、ステファノベーメルやペロン&ペロンなども、ビスポークあってのブランドというイメージが強いです。
だからこそ、ヴァーシュが最高の「既成靴」ブランドであると言えます。
本当にオススメできるからこそ、できる限り特徴や魅力が伝わるように書きました。一人でも多くの方に興味を持っていただけたら嬉しいです!
ではまた!
(少しでもお役に立てられたなら、SNSに拡散していただけると嬉しいです!)