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シルバノラッタンジ/ジンターラ|日本において幻となった至高の靴を書き記す

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「シルバノラッタンジ(Silvano Lattanzi)」、また「ジンターラ(ZINTALA)」という、イタリア・マルケの靴ブランドをご存知でしょうか。

90年代半ば頃から日本に流通し、2010年代の中頃までは、日本市場においてもプロパーで流通していました。

当時から「幻の靴」などと言われていたブランドです。

Image Photo by Silvano Lattanzi

「イタリア靴」のアイコンと言えば、グッチのビットローファーやフェラガモのウェッジソール。ドレスシューズならサントーニ、パンプスならセルジオロッシも有名でしょう。

一方、日本国内では「イタリアクラシコ」という90年代のファッションブームを通して、知られたブランドたちがありました。

「アルティオリ」や「ストールマンテラッシ」「ボノーラ」、そして今回取り上げる「シルバノラッタンジ」が、日本人の紳士靴愛好家に認知されたのもこの時代です。

今ではそれぞれの理由で、日本市場から姿を消しています。

ブランド自体が廃業してしまったものもありますが、シルバノラッタンジは、価格や流通量において、日本人の“手に負えないもの”となり、姿を消しました。

元々、当時からその生産数と価格から「幻の靴」と呼ばれていましたが、日本市場において本当に「幻」となってしまったブランドです。

SHOLL
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「最高の革靴」をお求めのあなたへ。

本日は、日本市場から消えて久しい「シルバノラッタンジ」の靴を改めて思い起こし、ブランドの魅力を深掘りしていこうと思います。

シルバノラッタンジ(Silvano Lattanzi)ドレスシューズ 革靴
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目次

シルバノラッタンジ(Silvano Lattanzi)/ジンターラ(ZINTALA)について

Image Photo by Silvano Lattanzi

シルバノラッタンジに関しては、私(37歳)くらい〜上の世代の紳士靴愛好家には、よく知られていると思います。

90~00年代の靴雑誌において、イタリア靴の最高級は「シルバノラッタンジ」でした。英国靴の最高峰が「ジョンロブ」や「エドワードグリーン」ならば、イタリア靴はラッタンジ。サントーニはもちろん、上述したどのブランドよりも高額です。

そして、「シルバノラッタンジ」および、そのやや廉価でモードなラインである(この表現が正しいか分かりませんが)「ジンターラ」の革靴は、もはや「工芸品」の領域に達しています。

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その作り込みは、並のビスポークシューズでは太刀打ちできません。

圧倒的なクオリティとそれ以上の意匠性に富んだ、見て、履いて、惚れ惚れする靴です。

1971年創業、イタリア・マルケ発のブランド

シルバノ・ラッタンジはかつて
「太陽生命」のCMに出演していました

創業者シルバノ・ラッタンジ(シルヴァノ・ラタンツィなどとも書かれます)は、世界一有名な靴職人のひとりでしょう。

1950年に誕生したランタンジは、なんと9歳から靴作りに励んでいたそうです。

修行を経たラッタンジは1971年、自身の名前(Lattanzi)のアナグラムである「ジンターラ(ZINTALA)」を立ち上げます。

Image Photo by Silvano Lattanzi

その後、よりクラシックに傾倒した高額なライン「シルバノラッタンジ」や、逆に廉価なライン「メイド・イン・マルケ」を立ち上げます。

また、「ガット(GATTO)」という、ローマのビスポークブランドを吸収したことも有名です。

その他、スピンオフブランドである「ジェラルドフォサッティ」なども、ラッタンジが手掛けたブランドでした。

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現在はブランド創設者シルヴァノの息子、2代目パオロ・ラッタンジたちが家業を継承し、親子2代体制となっているようです。

「本当の最高級ブランド」のひとつ

ラッタンジのストレートチップ。
表面にステッチが一糸も表れない「レベルソ仕立て」

紳士靴愛好家の間では有名ですが、私は先に、シルバノラッタンジを「最高級ブランド」と書きました。

これは、よくある“高級アピール”などではなく、名実ともに、値札も中身も最高級ブランドのひとつであるということです。

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少なくとも、ある程度認知されている既製靴において、ラッタンジより高額なブランドに心当たりがありません。

(そして、ラッタンジはビスポークも恐ろしい価格です!)

Image Photo by Silvano Lattanzi

何より、ラッタンジの靴は、息を呑む美しさです。

エドワードグリーンやガジアーノ&ガーリングの靴も“高級品”ですが、ラッタンジのそれは「違う世界の靴」と言った方が良いかもしれません。

現在、公式オンラインストアで購入可能なラッタンジの価格は、カーフレザーのストレートチップモデルで約5,000ユーロ。

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1ユーロ170円で換算すると、なんと既製靴で約85万円という価格です。

カーフの既成靴でこの価格なので、コードバンやエキゾチックレザー、そしてビスポークなら、数百万円クラスの価格になります。

「シルバノラッタンジ」と「ジンターラ」の違い

「シルバノラッタンジ」と「ジンターラ」の違いに関しては、やや説明が難しいです。

敢えて序列をつけるならば、「シルバノラッタンジ」がファーストラインで、「ジンターラ」がセカンドラインです。

しかし、これは些か正確な表現ではないかもしれません。

上述の通り、元々は「ジンターラ」ブランドが最初で、社名もジンターラ社です。

強いて言えば、ジンターラは“1〜1.2ndライン”くらいに思えます。

プロダクトとしての「シルバノラッタンジ」と「ジンターラ」の違いは、

  • シルバノラッタンジは、より意匠性を追求したモデルが多く、より工芸品要素が強い
  • ジンターラはモードやカジュアルブーツ、ブランドコラボ、やや作りがざっくりしたモデルなどが多め

という感じでしょうか。

「ジンターラ」の方が、卸す先によって九分仕立てで作られていたり、やや価格幅にばらつきがあるといった感じです。

とはいえ、使用するアッパーやライニング、ソールなど共通点が多いことも間違いありません。結局のところ、あまり差を感じさせないモデルも多かったです。

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基本的には購入時の箱も付属品も全く同じ、何ならインソック違いでしかないものまであるので、「明確な違いはない」と言っても良いかもしれません。

Image Photo by Silvano Lattanzi

ちなみに、ジンターラに関しては、違う方向でかなり“攻めたモデル”が多かったことも特徴です。

攻めている・・・というのは表現が難しいのですが、「元の歌手よりも上手く歌ってしまうカバー」のようなものも、どちらかと言えばジンターラの担当領域でした。

エドワードグリーンをリスペクトした“EGシリーズ”や、過去にはホワイツブーツやカルペディエムの“上位互換”を作ってしまうという荒らしぶり。

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お陰で、カルペディエムのデザイナーであるマウリツィオ・アルティエリに怒られたとか、嘘か誠か知れぬ逸話もあるくらいです。

とはいえ、現在はEGシリーズをラッタンジネームで展開するなど、やはり境界は曖昧です。

90年代の「セレクトショップ別注品」ムーブが、日本市場を切り拓いた

そんなシルバノラッタンジが90年代、日本で有名になった理由は、数々の高感度セレクトショップが、こぞって別注品をオーダーしたことに他なりません。

日本市場に残っていた頃のラッタンジは、とにかくモデルの豊富さが凄まじかったです。

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稀代のクリエイティビティに恵まれたアルチザンは、基本的に「ショップを跨いで、同じモデルを展開しない」という、およそ他のブランドでは考えられない徹底ぶりでした。

日本の洋装史を語る上で欠かせない名店
「サンモトヤマ」

「シルバノラッタンジ」や「ジンターラ」が別注品を提供していたセレクトショップは、

  • サンモトヤマ
  • 雪月花
  • バゼットウォーカー
  • バーニーズニューヨーク
  • 信濃屋
  • ディストリクトユナイテッドアローズ
  • ジャーナルスタンダード
  • 伊勢丹

など。

こうしてみると、惜しむらく閉店してしまった「名店」での取り扱いが多かったように思えます。

2013SSシーズン/ランウェイに登場した靴たちも、
ジンターラ製のシューズでした

また、デザイナーズブランドとして特に別注品が多かったのは、ジルサンダーでした。

90年代の終わりから、ことあるごとにコラボレーションを行い、特に、ジル・サンダーがクリエイティブディレクターであったときは、メンズ/レディース問わず、よくコラボレーションしていました。

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その他、「エルメネジルドゼニア」や「キトン」「ブリオーニ」「キャロル・クリスチャン・ポエル」といったブランドとの協業は見たことがあります。

シルバノラッタンジ(Silvano Lattanzi)ドレスシューズ 革靴
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なぜ、シルバノラッタンジは「圧倒的」なのか?

なぜ、ラッタンジの靴圧倒的」なのか。

これについては、

  • 圧倒的な少数生産
  • 今のブランドでは確保不可能な革や副資材
  • 品質と審美性を掛け合わせる「アルチザン」

を徹底して、惜しみなく、革新的に追求してきたからと、私は考えます。

ラッタンジには「大量生産品だから」「既製靴だから」と感じさせる靴がありません。

この時代においても、どんなに価格が高くなろうとも靴に妥協をしない。そんな「超カッコいいブランド」だからこそ、低品質化が止まらない革靴界において燦然と輝き続けています。

年間約300足という超少数生産

Image Photo by Silvano Lattanzi

まず、シルバノラッタンジが今なお圧倒的なクオリティを維持している理由として、圧倒的な少数生産を維持していることが挙げられます。

その生産数はなんと、年に僅か300足程度とのこと。

かつては「1日で最大25足までにコントロールしている」「年間5,000足」といった話もありましたが、恐らく職人の数、ラインや時代とともに増減していると思います。

Image Photo by Silvano Lattanzi

そして、シルバノ・ラッタンジは、

Nowadays, very often, the expression “handmade”, is used inappropriately by industrial companies that produce thousands of pairs per month in faraway and underpriced factories. 

公式HPより引用

「今日、『ハンドメイド』という表現は、遠く離れた安価な工場で作り、月に何千足も生産するような企業によって、不適切に使われることが非常に多い。」(筆者訳)

と、述べています。

まるで、有名英国靴ブランドが半製品を途上国で製造し、それらが「高級品」として認知されていることに警鐘を鳴らすかのように。

そして、自分たちこそが、本当の「高級品」であると言わんばかりに。

ZINTALA社の社屋/創業以来、イタリア・マルケの
工房にて一貫した生産を貫いている

公式HPに記載されている「年間300足」という数字は、確かにあまりに少ない生産量です。

「どこからどこまでなのか?」「流石に少なすぎないか?」などと思わなくもないのですが、本当であれば、日本市場から“消えてしまった”のも頷ける数字です。

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いずれにせよ、こういった少数生産にも関わらず、未だにイタリアの、世界の、トップブランドとして数えられます。

このことが、一足一足の存在感が「圧倒的」であることを物語っています。

至高のピボディ、グイディ、ホーウィン

Image Photo by Silvano Lattanzi

視覚的に分かりやすい点で言えば、レザーの質が他のブランドでは(ほぼ)現在では見られないものであること。

アッパーやライニング、ソールに至るまで、やはりラッタンジは異次元です。

例えば、アッパーのカーフレザーの場合、ラッタンジは主に、90年代に廃業してしまった「ピボディ(Pebody)」という英タンナーのレザーを使用しています。

そして、ピボディの中でもトップグレードのデッドストックレザーを使用しています。

たとえエルメスといえど、現在はこのグレードの革を使うことはできないレベルのものです。

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ピボディのデッドストックレザーは、もはや毛穴がないレベルで緻密で、薄いのに弾力感があります。

吊り込みに対する木型の再現度など、現行の革とは、あらゆる点において一線を画すクオリティです。

バケッタカーフによるシリーズ“TOKYO”
ラッタンジのロングセラー

また、グイディの「バケッタカーフ」も、ラッタンジが得意とする革のひとつです。

バケッタレザーとは、かつてイタリア・トスカーナ地方にあった、伝統的な鞣しを再現した歴史的な革。

スエードのような起毛感がありつつ、どこか荒々しくも繊細で、しっとりしたオイルドレザーの一種です。

バケッタレザーは、

  • 植物性のタンニンでなめされている
  • 革の芯まで加脂されている

ことが特徴で、非常に耐久性の高い革です。

カーフのように傷が付きやすくも、コードバンのように切れやすくもない。

そして、豊富な油分によって水にも強く、割れのリスクも非常に低いレザーです。

SHOLL
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現に、私自身、バケッタカーフの20年物の「ジンターラ」や、先ほど登場したデッドストックの「シルバノラッタンジ」を所有しています。

ラッタンジの靴は長年保つ良さがありますが、中でもバケッタレザーは限りなく“一生もの”に近い靴だと感じています。

そして、バケッタレザーの中でも、グイディ社のものは“高級感”において特別です

通常のバケッタレザーが、キメの荒い成牛の肩部分を使用するのに対して、グイディの「バケッタカーフ」は、アルプス地方で育ったカーフ(生後1年未満の仔牛)を厳選しています。

じっくりと時間をかけて油分を加えていった結果、繊維が非常に密で、きめ細かな上質感と耐久性を兼ね備えた、“至高のブーツ革”へと仕上がっています。

あとは、米ホーウィン社の「シェルコードバン」を用いたモデルも、ラッタンジの主力商品です。

ホーウィン社のシェルコードバンを
惜しみなく使用したモデルたち

シェルコードバン自体は、オールデンやハインリッヒ・ディンケラッカー、ヴァーシュといったブランドも用いる革です。

私物のシルバノラッタンジ
アッパーはウイスキーシェルコードバン

しかし、ラッタンジの場合は「シェルコードバンをレベルソ仕立てで靴にする」「全周囲スキンステッチを施す」といった、“とんでもない作品”を作り上げます。

非常に綺麗な革個体を、丸々と大きく用いてブーツの筒にしてしまったり。

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とにかく、同じ革すら用いることが難しかったり、同じ革を用いたとしても、他で見られないグレードや作り方をします。

そのような点において、ラッタンジは想像を超える靴を提供してくれます。

抜群の色彩感覚や、「これでもか」という意匠性

Image Photo by Silvano Lattanzi

そして、極上の審美性によって、美しい靴を作り上げる「アルチザン」であること。

結局は、この点がラッタンジを「圧倒的」な靴ブランドたらしめているのだと思います。

Image Photo by Silvano Lattanzi

例えば、革の着色工程。通常の“高級靴”であれば、アッパーの傷やシボを隠すために、既成染料やスプレーカラーを用いて誤魔化していることも珍しくありません。

しかし、ラッタンジはトップグレードの革を用い、これを手作りでひたすらハンドペイントで着色を重ねていく。

結果として、黒や茶、美しい色とりどりの靴が、ただの“色物”ではない出来栄えで誕生します。

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革の特性や作業に取り掛かる季節、気候に応じて、それは職人の手や美的感覚によって左右されます。

そして、一足につき何時間も何時間もかけることで、唯一無二の美しい靴が作り出されます。

硬質なソールの作り込みが、もはや普通の高級靴ではない

個人的には、「ソールの作り込み」も、ラッタンジが他の既成靴と一線を画す部分と考えています。

非常に硬質なソールが10分仕立てのフルハンドソーンによって返りが良く、しかも“中もの”がありません。

ビスポークであればともかく、既成靴でここまで作りこまれているソールは本当に珍しいです。

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履きおろし時からサイズ感が変わらず、しかも長年履ける「本物の高級靴」です。

終わりに|最高の靴を探してる人に、一度は手に取ってほしい

Image Photo by Silvano Lattanzi

今回は以上です。

「最高の革靴」の定義は、きっと各々で異なるでしょう。

それは、「黒いストレートチップが足に合っていること」であるかもしれません。

あるいは、単純に「ブランド力」の最高が、あなたにとっての最高かもしれません。

しかし、もしあなたが「高級品」「トップクオリティ」「圧倒的意匠性」などを求めるのであれば、シルバノラッタンジは、ぜひ一度は手に取ってほしいブランドです。

生産数は非常に少なく、今や、世界的な知名度も有名英国靴ブランドと比べれば低いでしょう。

価格も高騰しすぎてしまい、お世辞にも普通に買えるものではありません。

しかし、この日本市場から姿を消したシルバノラッタンジを、私のように今なお「最高の靴ブランド」と言う人がいます。

これは、ラッタンジの靴に品質、技巧、作り、洗練されたアートワーク、カラーリング・・・といった「圧倒的」さが、潜んでいることの証左でもあります。

ラッタンジは、内部まで“日本人の繊細な仕事が光る”という靴ではありません。

ここはイタリアのハンドメイドらしく、ちょっとした左右差や大味感などは感じられます。

とはいえ、「キチンとすべきことをキチンとする」ことで長年の着用を可能にし、さらに圧倒的なアルチザンが美しく、ハンドメイド感あふれる、素晴らしい靴を作り上げている。

そんな“おおらかさ”と“作りの真面目さ”、“自由な発想”を兼ね備えた素晴らしい靴が、「シルバノラッタンジ」だと思います。

他の高級ブランドにも、それぞれの魅力があります。

しかし、ラッタンジの魅力は、それらとは全く異なるこだわりであり、説得力であり、紛れもない「本物の高級靴」です。

スーツに合わせる、ドレスシューズとして。Tシャツにジーンズと共に履く、ワークブーツとして。

そして、アルチザンの息吹を感じる作品として。

シルバノラッタンジは、いずれにおいても最高の革靴ブランドのひとつに違いないでしょう。

おしまい!

(少しでもお役に立てられたなら、SNSに拡散していただけると嬉しいです!)

シルバノラッタンジ(Silvano Lattanzi)ドレスシューズ 革靴
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SHOLL(しょる)
1987年生まれ。国内ブランドを経て、伊ラグジュアリーブランドのデザイナーとして4年間勤務。
現在は日本の服飾産業を振興するため、マーケティング支援活動を行っています。
素材の機能性からパターンまで精通し、シンプルかつ素敵な服装の普及に努めています。
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