こんにちは、しょる(@SHOLLWORKS)です。
本日は、高級なジーンズとそうでないものの「違い」について。
ジーンズこそ、違いが分かりにくいと思います。
「ユニクロのジーンズはカイハラのデニムをずっと使っていて、高級ジーンズと違いがない!」
だとか、
「ハイブランドのジーンズはカッティングが違うな!(キリッ)」
だとか。
双方の言い分があるように思えますが、じゃあ、
「カイハラのデニムってなんで3,990円のジーンズに導入できるの?」
とか、
「カッティングが違うって具体的にどの部分やねん!」
といった疑問は消えないと思います。
そこで今回は、ファッションのプロがこの疑問を解決しようと思います。
結論、ブランドによって高価な「差」は異なるのですが、その要素自体や、モノとしての違いについても言及しようと思います。
ちなみに、ユニクロのジーンズは素晴らしいプロダクトです。
ジーンズの違いは、どんな高級ブランドかによって異なる
「高価=生地やパターンが良い」わけではない
結論、高級なジーンズvs廉価なジーンズの差は、「どう高級か」によって異なります。
ざっくりと言えば、廉価なジーンズに対する比較対象が、
vs ハイブランド
です。
また、
vs 手間を掛けられたデニム専業ブランド
です。
ぶっちゃけこれが「結論」ですが、以降はその仔細について、具体的な商品も交えながら言及します。
そもそも、「高級である理由」に、的を射た言及するメディアが少ない
上記はVOGUEの動画ですが、決して「間違い」ではないです。
特に、
- 前半の、エラスティン(ポリウレタン)入りのものは縫製ピッチにも影響する点
- 後半の、ヴェトモンの意匠性と類似ジーンズと違い
この2点は参考になる点だと思います。
ただ、ご存知「セルビッジ」や「ボタンフライ」はユニクロでも導入できる(た)仕様です。
これらだけで、決して高級な理由にはなりません。少なくとも、高品質な商品に囲まれて生活している日本人の多くは納得しないでしょう。
一口に「ブランド」と言っても、星の数ほどブランド数があって、複数の高価な理由があります。
そのブランドが、
- どんな点に強みを持つか
- その価格設定の理由は何か
によって、「廉価なジーンズとどんな差があるか」は異なります。
つまり、そのブランドが力を入れているのが、「広告費」なのか、「人件費」なのか、あるいは「製品品質」なのか。
結局は、それらのコストを利益分も乗せて回収するための価格設定ですから。
ここが異なるのに、一緒くたに「高級vs安物」という二元論に言及しようとすると、勘違いが起こります。
いわゆる「ハイブラのジーンズ」はなぜ高いのか
例えば、トムフォードやグッチのようなハイブランドの場合、人に憧れられるからこそ、知名度と高級なイメージを与えられます。
本当に成功したアパレルは儲かります。廉価にせよラグジュアリーにせよ、日本や世界の富豪ランキングを見ても、お分かりいただけるでしょう。
そういった要素は抜かすとして、ラグジュアリーブランドの場合、コストの大きな部分が「有名であり、憧れ続けられる」ための広告宣伝費に使用されます。
つまり、内外から憧れられるから、そのステータスが成立しています。
そのためには宣伝が必須ですし、ラグジュアリーなイメージを維持・向上させることが使命です。
そして、消費者としてもブランドとは、ラグジュアリーな価格設定とイメージがあってのもの。
消費者の大多数は、商品のクオリティが分かりません。だからこそ、売れるためにはモノとしてのクオリティが最高峰である必要はありませんし、仮にそうすると評価されない部分を頑張ることになるため、“ビジネス的に効率が悪い”のです。
そのリソースを有名コレクションへの出展やメディアへの露出、Google広告に使った方が「売れる」わけですね。
また、これは消費者だけでなく、今のメディアも同様です。
結局、無理矢理「生地が違う」とか「シルエットが違う」という意見は本質的ではそれっぽいこと(でも、具体的にどう違うかは説明していない)を言って、なんとなく納得させようとしてしまうため、ますます情報の本質が分かりにくくなっています。
Image Photo by Imn
その他、(ハイブランドやラグジュアリーブランドを含む)デザイナーズブランドの場合、「特有のアイデア」が付加価値になっています。
例えば、上記はジルサンダーが2016年にローンチした「焼杉ジーンズ」。
日本家屋の壁材にインスピレーションを得て、ダメージ加工を施したデニム生地に「焼杉」の表面のような炭化した表情を、ポリウレタン加工によって再現したものです。
正直、大抵のデザイナーズブランドのジーンズが、クオリティという点でユニクロとあまり差がないことは事実です。
これは、そういったブランドが製品品質にコストを掛け(られ)ないという点と、ユニクロのクオリティが価格比で非常に高いという両面が関係します。
いずれにせよ、こういった先鋭的かつデザインセンスとして納得できる部分(+αで岡山のデニムファクトリーで生産、など)に、私たちはお金を払うわけです。
ラグジュアリーとして、「憧れ続けられるための努力」や「デザイナーズブランドとしての個性やフィロソフィー」にコストを掛けている部分。
これを良しとするか、価値を置かない点とするかによって、あなたがハイブランドのジーンズを買うべきか否かは変わります。
本当に高い「デニム専業ブランド」は、どう違うのか
では、高品質なデニム専業ブランドのジーンズはどう違うのか。
幸いにも私たちは、世界中のブランドのジーンズを生産するデニムの聖地たる日本に住んでいます。
パリやミラノコレクションに登場するわけではない、世界的に知名度が高いわけでない。しかし、製品品質が高い。そのジーンズの「こだわり」とは、例えばどのような点があるのでしょう。
「股ぐり」のカーブだけは誤魔化せない、が・・・
股上が浅かったり深かったり、テーパードであったりなかったり、ワタリや裾幅がゆとりがあったりなかったり。ジーンズのこういった点は好みが分かれるものの、股ぐり(の、特に後ろ)パターンだけは「深め」が正解です。
ジーンズに限らずパンツ全般に言えることですが、パターンにおいて後ろパーツの「股ぐり」カーブは超重要です。
このカーブが浅ければ、とても縫いやすくコストを落とせます。しかし、ここに布が余っていなければ、常に股に食い込む、穿き心地の悪いパンツになり、脚の可動域も狭まります。
ただし、この点に関しては、ユニクロのジーンズはかなり優秀です。モデルにも依りますが、定番の「レギュラーフィットジーンズ/セルビッジ」(写真左)などは股ぐりが深く設定されており、素直に感心します。
一方、先述のデザイナーズブランドのようなジーンズでは、おざなりになっていたりします。
ポリウレタン混のジーンズなどは、「伸びるから浅くても良い」と思って、楽に作っているブランドも多いですね。
ただ、それならばまだ良いかもしれません。中には綿100でパターンが甘いと、かなり穿き心地の悪いジーンズになってしまいます。
写真の二枚目は某デニムで有名になった筈の北欧ブランドですが、パターンもダメ、生地もイマイチと、全体的にあまり良いとは言えないジーンズです。
パンツの場合、基本的に前と後ろの大きな2パーツを縫い合わせるため、そこまですごく大きな変化というものがあるわけではありません。
既製服の場合、「脚に合ったパンツを選ぶこと」が原則で、パターンで圧倒的な差を生み出すことは比較的難しいと言えるでしょう。
ウールのテーラードパンツの場合、“くせとり”によるお尻部分の膨らみなどでかなりの差が生まれます。しかし、ジーンズの場合、そこそこ以上の地厚な綿生地を縫い合わせるため、原則としてそういった違いは作れません。
え、じゃあジーンズはユニクロでも差がない、むしろ良いまであるんじゃん!
と言いたいところですが、そうもイカの金時計。
ここからは、ユニクロのジーンズでは導入できない、付加価値を紹介しようと思います。
綿糸の「精紡機」やデニムの「織機」も、商品の背景になる
例えば、繊維の原毛を撚り合わせて糸を作る精紡機や、経(たて)糸と緯(よこ)糸を織り、布にする織機。
これらが旧式の場合、
- 生産性が低い➡️紡いだり織るスピードが遅いため、糸や布の傷が少ない
- ローテクな製法であるため、生地に独自の表情が生まれる
といった付加価値が生まれます。
Image Photo by STUDIO DARTISAN
上記は、ステュディオ・ダ・ルチザン(以下、ダルチザン)という岡山にあるファクトリーブランドのジーンズです。
このジーンズの場合、豊田自動織機(車のトヨタグループにおける本流企業)が開発した、「G3」という1950年代の短い期間のみ生産された力織機を用いています。
この織機の何が良いかというと、
- 歴史を感じさせるヴィンテージ感ある織機
- 生産効率が悪く、織機のスピードが遅い
という点です。
前者は価値を感じるかは人によって異なるでしょうが、後者に関しては「生産性が悪い(=ゆっくり)」ということは、綿糸を傷つけずに織ることが可能ということ。
さらに、独特のローテクな機械によるデニム生地の表情が、現在の“生産性の高い織機”には出せないものになっています。
デニムマニアは、こういった点を評価対象にします。
自然な糸のムラ感が、穿き込む、着こむことでヴィンテージ感あるタテ落ちを提供してくれます。糸や生地の段階から、色落ちのレベルまで変わってくるのがデニムという世界です。
「G3」は、1 時間に5m ほどしかデニム生地を織れない織機です。
当然、大ロットの廉価なデニムブランドでは考えられない生産効率ですが、不均等ながら自然なヴィンテージ感あるムラ感、荒々しく武骨感のある生地という「付加価値」を提供しています。
つまり、仮に「◯◯(メーカー名)のセルビッジデニムを使用している」と言っても、そのメーカーのどんな織機を使用しているのかまでは言及されていません。
同様に、「××の超長綿を使用している」と言っても、どんな等級や繊維長のバラツキ度合い、精紡機の種類によって、どんな糸や布になるかは異なります。
こういった、世間ではほとんど語られないストーリーや生地の微細な表情の“差”が、デニムのプロダクトとしての差が生まれる部分です。
「染め工程」にもストーリーが詰まっている
また、ジーンズの差として、「染め」も付加価値に大きく関わります。
現在のデニムは、ほとんどが「インディゴ染め」という、石油由来の合成染料を用いてブルー~インディゴに染めています。
一方、一部の、特に岡山の高級ジーンズの中には、日本の伝統的な「正藍染」によるジーンズを展開しているところも存在します。
こちらは、同じくダルチザンの、「阿波正藍・日の出」デニムというジーンズ。
定価75,680円(税込)というかなり高価なジーンズですが、
- 経(たて)糸には、日本が世界に誇る「阿波正藍法」で手染めされた糸
- 緯(よこ)糸は、植物染料の「茜」で染められたもの
を使用しています。茜は、日本国旗の日の丸を染める染料としても有名です。
「正藍染(しょうあいぞめ)」は、藍染めの中でも特別な方法。
藍の葉を発行させた蒅(すくも)と灰汁だけを使う方法で、灰汁のミネラル分が蒅の餌となることで微生物が増え、その微生物が本来水に溶けない藍を水溶性に変える伝統的な染色方法です。
藍染めの衣類は、虫をはじめ蛇も近寄らないほどの防虫効果であったり、消臭効果、保温効果、肌を守る紫外線防止効果があったり。かなり有用な天然染料です。
また、染料は生地を弱くすることが多いのですが、藍染めは元の綿や麻といった糸を強くする稀有な染料です。
さらに、「正藍染」の場合、使用後の染液は農業資材として利用も可能です。
実際に本藍染めのジーンズはもちろんのこと、正藍染のジーンズはめったに見られるものではありません。
ちなみに、植物の「藍」を使用していれば、化学薬品を使っていても「本藍染」にはなります。例えば、苛性ソーダなどを使用する方法が一般的です。
「正藍染」と「本藍染」の違いは、糸に藍で染める際に、化学薬品を用いるか用いないかの違いです。
一方、廉価なジーンズ・・・というか、ハイブランドも含めたジーンズの99.9%は、石油由来の「合成インディゴ」で染められています。
元々は日本のみならず、ジーンズが誕生したアメリカでも藍染めのジーンズでした。
しかし、あまりに藍から青を出す手間が掛かるため、1900年頃に合成染料である「インディゴ染め」が発明されました。
インディゴ染めは、とにかくコストを落とせる点が魅力です。
しかし、インディゴは繊維への定着性が悪いため、糸の内部まで染まりにくい染料です。
藍染めの効果・効能が見込めないことはもちろん、色落ちしやすいという欠点があります。
稀に「ピュアインディゴ」といった名称で自然由来感を出しているところもありますが、バリバリの合繊染料です。
結局、ユニクロのジーンズは良いジーンズなのか?
「最低限」のハードルが低いジャンルにおいて驚異的
と、言った違いはあるものの、例えば、廉価なジーンズの代表であるユニクロのジーンズは良いジーンズなのでしょうか?
これに関しては、個人的には「非常に良い」と思います。
やはり、コストを鑑みると、ユニクロのジーンズ、特にセルビッジのものは驚異的だと思います。
というか、今この記事を書いている新幹線の車内でも、ユニクロのジーンズを穿いています。
あなたは、「無個性・無ストーリー」でも構わないか
ユニクロジーンズのメリットは、3,990円という価格でそこそこの品質の、少なくとも日常的使いで何も問題のないジーンズが手に入ること。
そして、最大の欠点は、今まで書いてきた高いジーンズである理由と比較して「無個性・無ストーリー」なジーンズであることです。
結局、この点をどう思うか、だと思います。
厳密な意味でのファッションを追い求めるなら、「無個性・無ストーリー」という点はファッションではありません。
しかし、ユニクロはむしろそれを狙ったメーカーですし、十分すぎるほどの品質を提供してくれています。
「カイハラデニム」と言っても、生産量が高ければコストを落とせる
また、ユニクロのデニムをアピールする際、よく引き合いに出されるのが「カイハラデニム」を使用しているという点。
これに関しては、
- 大量発注すれば単価コストは極限まで下げられる
- 生産量に重要な織機のスピードなどは言及されないため、魔法のように感じる
です。
カイハラという企業は、元々広島の餅屋で、1970年代からデニムの生産に注力したことで有名となりました。
現在では、紡績から整理加工までデニム作りのすべての工程を社内で行う類まれな企業として、非常に大きな貢献をしている企業であることは間違いありません。
しかし、ここまでお読みいただいている方は、ご理解いただけると思います。
「ユニクロのデニムは、カイハラのどんな織機でデニム生地を生産し、カイハラのデニムと言ってもどんな糸を用い、どんな染色をしており、セルビッジデニムだとしても、どんなスピードで仕上げているのか」といった情報には言及されないわけです。
「プラダもカイハラのデニムを使用している」という事実は、同じデニム生地とも限りません。
そして、「そもそも、プラダのジーンズはそんなにプロダクトとして良いジーンズなのか」という点も、問わなければなりません。
「色落ち問題」は確実に改善されてきている
とは言え、ユニクロのデニムに関してはそれで良いと思う自分もいます。
一昔前のユニクロジーンズは色落ちが酷かったですが、現在はインディゴの染色堅牢度が増していると思います。かなり改善されました。
元々施されている色落ち加工は正直、まだ微妙ですが、リジッドのデニムそのものはかなり良いと思います。
ユニクロのジーンズは、少なくとも日常使いに問題を感じるレベルは卒業しました。
ちゃんとした差は知っておいても損はないと思いますが、これ以上を求めるのは贅沢すぎるということも間違いないでしょう。
終わりに|ジーンズというジャンルは、「ストーリー性を買うか」で考える
今回は以上です。
そもそも論、パンツの機能性だけを考えるならば、ジーンズというプロダクトはもはや役目を終えています。
虫よけ機能を持った丈夫な布で鉱山を採掘するわけでもなければ、日本の都市部は夏が熱く、日本海側や東北以北の地域の冬は寒すぎる。
ジーンズよりも動きやすく、もっと涼しく、もっと軽くて暖かいパンツを手に入れることは難しいものではありません。
しかし、ジーンズは今なお定番のパンツであり、日本における服装史の重要なパートでもある。
そして、日本が世界に誇る産業にもなっています。
結局のところ、「レプリカ」「ヴィンテージ」といったジャンルが存在すること自体、歴史やストーリー性が重視されていることの証左です。
その上で、デザイナーの個性や意匠性を買うか、岡山のこだわりのもの作りを買うか、コスパだけを突き詰めた無ストーリーを買うか。
あなたの価値観に合った、ジーンズ選びをしていただければ幸いです。
あなたはジーンズを穿きますか?どんなジーンズを穿きたいですか?
おしまい!
(少しでもお役に立てられたなら、SNSに拡散していただけると嬉しいです!)