お気に入りの服が、貝ボタンかプラスチックボタンかが気になる・・・
とか、
良い服を自分で見分けられるようになりたい!
などと、思う人は多いと思います。
そんなわけで、本日はファッションのプロである私しょる(@SHOLLWORKS)が、皆様に
- プラボタンと貝ボタンの見分け方
- 貝ボタンの中での種類や違い
をお伝えした後、日本で作られる貝ボタン産業について、お話できればと思います。
【まずは】プラスチックボタンと貝ボタンの見分け方
一口にプラスチックボタンと言えど、実際にはカゼインタンパク質によるラクトボタンや、現在ではもっとも一般的なポリエステルボタンなどに分類されます。
カゼインプラスチックは1885年にアメリカで特許が取得され、日本でも大正時代には使用されていました。
一方、ポリエステルは、1941年に英キャリコ・プリンターズ社によって開発された合成繊維。1950年代、米デュポン社によって工業化され、ボタンとしても量産されるようになりました。
特に、ポリエステルボタンは、今では貝ボタンの代用品としてメジャーになりました。
ここでは、貝ボタンと、プラスチックボタン(主にポリエステル素材)の違いや見分け方を見ていきましょう。
貝は熱伝導率が高く、触るとひんやりする
まず、貝ボタンとプラスチックボタンとの違いとして、触ったときのひんやり感が挙げられます。
小さいボタン1つだけ触っても分かりにくい場合がありますが、ある程度の大きいボタンや、何個か同時に握ると分かりやすい見分け方です。
これは、貝殻の主な成分である炭酸カルシウムとプラスチックの熱伝導率が大きく異なるから。熱伝導率が高い物質に触れると熱を奪われ、ひんやりとします。
同下室温下でも、例えば木に触れた場合と金属に触れた場合では、金属の方がひんやり感じますよね(素材が体表の熱を奪う)。
逆に、ホットの飲み物が缶とペットボトルとでは触れたときの熱さが異なるのも、熱伝導率が高い(今度は熱が手に伝わってくる)ことが理由です。
表情が均質か、細かな色むらの有無
また、表面や裏面の表情のバリエーションも、貝ボタンとプラスチックボタンの違いを見分ける指標です。
プラスチックボタンの中に白蝶貝のボタン(真ん中)を放り込んでみると、差が良く分かります。
周りのプラスチックボタンは、どれも同じ見た目です。
しかし、真ん中の1個(白蝶貝ボタン)は、模様が浮かび、上品に輝いていることが分かります。
周りのプラスチックボタンたちも悪い品ではありませんが、一様に“のっぺりと白い”のに対し、白蝶貝はまるで「カードダスのキラカード」のような存在感を放っています。
楽天市場より引用
最近では、プラスチックボタンでも“なんちゃってオーロラ”のようなものが入っている商品があります。
しかし、白蝶貝のような輝きのバリエーションはありません。オーロラも放射状で、輝きもラメの細かな粒状です。
貝ボタンのような“そこに留まるような、豊かなゆらめき”は感じません。
あとは、虹色に光るものや、高瀬貝の皮を再現したプラスチックボタンもあります。
ただ、まだ「プロでも見分けられない」というボタンはないと思います。
ラメのような粒々した輝きであったり、模様を完全に再現しきれないものがほとんどです。
その他、ポリエステルボタンと貝ボタンの違い
その他の違いとして、
- 貝ボタンはボタンを留めやすい
- ポリエステルボタンは経年で黄変するものが多い(貝ボタンは黄変しない)
- 貝ボタンの「割れるリスク」は、品質や個体、使用状況によって異なる
といったものが挙げられます。
貝ボタンはボタンを留めやすい
貝ボタンは、天然の貝殻をくり抜いたものに磨きを掛け、端に丸みを持たせるように処理します。
しかし、天然のものである以上、どうしても表面や側面に目に見えない微細な凹凸があり、これがボタンに触れるときの“引っ掛かり”になります。
そのため、均質なプラスチックボタンに比べて滑りにくい、というのも貝ボタンの特徴です。
ポリエステルボタンは黄変する
また、ポリエステルは劣化に強く耐久性の高い素材ですが、紫外線にさらされると、どうしても構造の一部が分解され、変色や退色が起こることがあります。
一方、貝ボタンは熱に強いので、プラスチックボタンに比べアイロンなどによる変形・変色は起こりにくいです。
日光による変色もほぼないので、耐候性といった点では優れています。
貝ボタンの「割れるリスク」について
ただし、貝ボタンは品質によって割れやすいものがあります。
どうしても素材の特性上、衝撃には弱く、 クリーニング店の高圧機械プレスなどによって割れることがあります。
とはいえ、高級な貝ボタンが付いているシャツを高圧プレスに掛けることは考えにくい点、あとは、貝ボタンのクオリティ次第な部分もあります。
耐久性そのものは、総じてプラスチックボタンに敵いませんが、ポリボタンも強い衝撃を与えると割れることはあります。
一長一短とも言えます。
そもそも、貝ボタンの中でも種類が分かれる|違いを解説
そして、貝ボタンというジャンルの中でも、種類は実に多種多様です。
ここでは、代表的な貝ボタンの種類を紹介します。
高瀬貝(たかせがい)
まず、「高瀬貝(たかせがい)」という種類の貝殻を用いたボタン。
貝ボタンとして最も一般的であり、商品説明に「貝ボタンを使用」などと書かれる場合は、ほとんどがこの高瀬貝を指します。
先ほどの白蝶貝ボタンと比べると、やや黄味がかった色に、裏側に赤や緑の模様があることが特徴です(この模様が貝殻の表側です)。
引用:https://www.zukan-bouz.com/
高瀬貝は別名、更紗馬蹄(サラサバテイ)とも呼ばれ、沖縄や小笠原諸島、奄美大島以南に生息します。関東に住む人は見慣れないですが、食用貝として登場することも。
一方、アパレルに使用される貝殻は、明治時代から大半が輸入品です。
日本では、インドネシアやオーストラリア、パプアニューギニアなどから輸入されるものがほとんどです。
ちなみに、高瀬貝の中身は美味しいです。美味な貝としても有名で、稀に料理に出されることもあります。
アコヤ貝
Image Photo by KAWANISHI BUTTON
アコヤ貝は和珠(わだま)とも呼ばれ、古来から貴族に愛用されてきたアコヤ真珠の母貝です。
日本では20世紀初頭から真珠の養殖産業が確立され、愛媛県などで重用されている貝でもあります。
ボタンにした際、高瀬貝と同様に多くが“皮つき”のボタンですが、強い虹色に輝くことが特徴です。
ピンク色の部分もよく用いられ、さまざまな色のボタンを見かけます。
生息域が広く、太平洋はもちろん、インド洋やオーストラリア、地中海などでも捕れる貝です。
そのため、イタリアのブランドなども好んで使う貝でもあります。
白蝶貝(しろちょうがい)
Image Photo by PEARL SEIWA
貝ボタンの中で、間違いなく最高峰となるのが白蝶貝(しろちょうがい)です。先述のプラスチックボタンとの比較に用いた貝ボタンも、この白蝶貝のボタンです。
南洋真珠を育てる、真珠母貝(マザー・オブ・パール)のシェルを用いています。
透き通りながらも虹色に輝き、そして白くもあるという絶妙な美しさのボタンを作ることが可能です。
そして、白蝶貝ボタンは、価格も貝ボタンの中で抜きんでています。
モノにも依りますが、概ね高瀬貝の3倍~はすることが多い、圧倒的に高価なボタンです。
Image Photo by マルガリータ
「真珠母貝」と言っても、実際には幾つかの種類に分かれます。
南洋種は「シルバーリップ」とよばれ、日本では戦前にフィリピンから搬入し育てていたそうです。
その他、インドネシアやマレーシア、ミャンマー、タイ北部、オーストラリア北部など、水温が高い熱帯の海に生息しています。
一方、同じ真珠母貝でも「ゴールドリップ」と呼ばれる、東南アジアに多く生息するものもあります。
黄色い真珠母貝で、白蝶貝の一種とも、黄蝶貝とも呼ばれる種類のボタンも存在します。
黒蝶貝(くろちょうがい)/茶蝶貝(ちゃちょうがい)
Image Photo by KAWANISHI BUTTON
その他、黒真珠の母貝となる黒蝶貝、マベ真珠の母貝となる茶蝶貝といった種類もあります。
これらのボタンは、皮つきのものから分厚いものまで販売されています。
色も黒から銀、白い個体まであり、中間色~濃色のシャツやジャケットに使用されることが多いことが特徴です。
これらは、白蝶貝ほどの価格で販売されることはほとんどありません。
概ね、高瀬貝よりやや高いくらいの価格であることが多いです。
あとは、あわび貝や広瀬貝、パウア貝(装飾品が中心ですが)といった品種のボタンも、稀に見かけることがあります。
奈良県川西町と日本の貝ボタン産業
Image Photo by 中川政七商店
ここまで、貝ボタンとプラスチックボタンとの見分け方や、貝ボタンの種類について言及してきました。
最後に、日本の貝ボタン産業について話をしようと思います。
現在の日本国内の貝ボタン産業は、奈良県川西町という、人口1万人に満たない自治体が約85%のシェアを占めています。
高品質な服に欠かせない日本製の貝ボタンは、大半がこの川西町で加工されたボタンが使用されています。
19世紀の終盤、ドイツ人によって日本へ伝来
日本の貝ボタン産業は、殖産興業を進めていた明治20年代にドイツ人による技術指導によって誕生したと言われています。
始めは神戸から大阪へ、そして明治30年代には、さらに愛媛や奈良に伝わったそうです。
そして、先述のとおり、現在では奈良県川西町が貝ボタン産業の中心となっています。
海のない奈良県が、貝ボタン産業を地場産業とした理由として、
- 綿加工業の技術革新の遅れ
- 農家の現金収入として、家内工業的に取り入れた
といった状況が挙げられます。
従来の産業であった綿糸加工が他地域に比べて遅れ始め、そのタイミングで農家の副業として導入されたことがきっかけだそうです。
バブル崩壊後の廉価な服の普及によって、徐々に縮小産業に
奈良県川西町では、明治の終わりから大正にかけ徐々に貝ボタン産業がメジャーとなりました。
全盛期の昭和20~30年には多くの世帯で貝ボタンが製造され、それらの勢いはプラスチックボタンが普及し始めた昭和40年代になっても継続されていたそうです。
しかし、昭和から平成に移り、日本のバブル経済が終焉すると、日本国内にも廉価な服が数多く流通するようになります。
1991年には洋服の半分が日本製だった時代から、現在は1%を切る寸前とも言われる時代へと移り変わりました。
海外で縫製した商品に、海外で製造されたプラスチックボタンが付けられる。
そういった服が主流となることで、川西町の貝ボタン産業従事者は、徐々にその数を減らす結果となりました。
「川西ボタン倶楽部」にて、オンライン購入することが可能
Image Photo by 中川政七商店
徐々に数を減らしている川西町の貝ボタン産業従事者ですが、川西町商工会がオンラインストアにてボタンを販売しています。
「川西ボタン倶楽部」というサイトで、日本の貝ボタンの約半数を生産する「株式会社トモイ」をはじめ、複数の事業者が製造する日本の貝ボタンを購入することが可能です。
さまざまな種類や大きさ、形状の貝ボタンを見ることができます。
あなたの服を、貝ボタンでアップグレードするのも良いですね。
ぜひ一度、覗いてみてください。
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