こんにちは、しょる(@SHOLLWORKS)です。本日は、「バケッタレザー」について紹介します。
バケッタレザーは、中世のイタリア・トスカーナ地域に存在した、伝統的な鞣し革を再現したオイルドレザー。
オイル含有量が多く、使い込むほどに独特のツヤと深みを増していくのが大きな魅力です。
Image Photo by GANZO
特にブーツやバッグ、財布などの革小物類に用いられることが多く、耐久性はもちろんのこと、所有する満足感や付加価値からも、多くの革マニアに人気があります。
今回は、そんなバケッタレザーの特徴やお手入れ方法、代表的なタンナー&ブランド商品を紹介します。
また、最後には、私が所有しているバケッタレザーのブーツに関するレビューもお届けします。
植物の渋(タンニン)で鞣し、秘伝のレシピで天然オイルを染み込ませた、表情の面白さや耐久性、手入れのしやすさを兼ね備えた牛革です。
個人的にも非常に好きなレザーなので、ぜひ、皆さんの財布やブーツのワードローブに加えてみてください!
バケッタレザーとは?イタリア伝統のオイルドレザーについて
バケッタレザーの特徴
- イタリア・トスカーナ地方で誕生した革
- タンニン鞣し×オイルを染み込ませたレザー
- 「革感」ある表情とエイジング
バケッタレザーは、植物タンニン鞣(なめ)しの工程でたっぷりとオイルを含ませる「バケッタ製法」によって製造されたレザーです。
バケッタ製法は、タンニンを時間をかけて染み込ませた後、牛骨などを沸騰させて作る「牛脚油」などをゆっくり加脂していく製法。
厳密にはタンナーによって部位や製造方法が微妙に異なりますが、いずれも秘密のレシピだそうです。
“Vaquetta”というのは元々、スペイン東部のカタルーニャ語で「牛」「仔牛」を意味し、豊かにオイルを含ませたフルグレイン(表面を削らない)レザーを指します。
諸説ありますが、大体8世紀頃に製法が確立されたと言われています。
イタリア・トスカーナ地方で誕生した革
イタリア・トスカーナ地方は、中世から“革の聖地”と呼ばれてきた地域。
なかでも、伝統的に植物タンニンなめし(ベジタブルタンニング)の伝統が色濃く根付いているこの地域は、世界的に評価の高いイタリアン・レザーの産地として知られています。
その代表例のひとつが、中世に存在していた伝統的な革の鞣し方を復元したバケッタレザーです。
なぜトスカーナが“革の聖地”なのか
- 長い歴史と職人文化
ルネサンスの中心地であるフィレンツェを擁するトスカーナ地方は、古くから芸術や工芸が盛んで、革産業もその一翼を担ってきました。代々続くタンナー(なめし工房)が数多くあり、なかには数百年の歴史をもつ老舗も存在します。 - 植物タンニンなめしの伝統
化学薬品を使わない“植物タンニンなめし”の技術が、中世から連綿と受け継がれてきました。自然由来のタンニンを用い、時間をかけてじっくりとなめすことで、エイジングに優れた独特の風合いをもつレザーが生まれます。 - イタリア植物タンニンなめし革協会
「Consorzio Vera Pelle Italiana Conciata al Vegetale」と呼ばれる協会があり、伝統的製法で作られた本物のイタリアンベジタブルタンニンレザーを認証・保護しています。ここに加盟しているタンナーの多くが、バケッタレザーを含む高品質な革を生産しており、その製品には協会発行の証明タグが付けられます。
「イタリア植物タンニンなめし革協会」は、1994年にトスカーナ州で設立された非営利団体です。
協会の厳しい審査に合格した、州内の約20のタンナーによって構成されており、現在はトスカーナ州のピサ県(「ピサの斜塔」で有名なあのピサです)に本部が設置されています。
バケッタレザーは、この協会加盟のタンナーたちによって生産されています。
革自体がブランディングされ、さらにその革を採用するブランドを経て、革愛好家の手に渡っています。
タンニン鞣し×オイルを染み込ませたレザー
Image Photo by 山陽
バケッタレザーは先述の通り、植物由来の「タンニン」を用いて鞣すことが大きな特徴のひとつです。
タンニン鞣しは、ミモザのような植物から“渋み”を抽出し、原皮に用いることで腐らないように「革」にする工程。
現在の主流である「クロム塩」を用いた鞣し工程と比べて「革へのなり方」が大きく異なります。
タンニン鞣しの特徴
天然タンニン vs. クロム化合物
- タンニン鞣し
- 植物由来のタンニン(樹皮・果実・樹液など)を使用
- 天然資源ゆえの価格変動や確保コストがあり、調達にも手間がかかる
- 混合比率や品質の安定化が難しく、同じロットでも成分差が出やすい
- クロム鞣し
- クロム化合物(硫酸クロムなど)を用いる
- 工業的に大量生産された化学薬品を使うため、入手性が良く、価格も比較的安定
総じて、タンニンは自然由来なのでコストが高め&安定供給に手間が掛かり、クロム化合物は(比較的ではあるものの)大量かつ安価に調達可能です。
その結果、タンニン鞣しとクロム鞣しの違いには、以下のようなものが挙げられます。
項目 | タンニン鞣し(ベジタブル) | クロム鞣し |
---|---|---|
いつから存在? | 紀元前 600 年頃 (地中海地域で誕生したという説) | 1858年 |
主な鞣し剤 | 植物由来のタンニン (樹皮・果実・草などから抽出) | クロム塩 (硫酸クロムなどの化学薬品) |
鞣し期間 | 数週間~数か月かかる場合も | 数時間~数日程度で完了する |
仕上がりの風合い | – 経年変化を楽しめる – 独特の香りや質感がナチュラル | – ソフトで均質 – 色の再現や安定感が出しやすい |
コスト・手間 | – 時間や手作業が多く、生産効率が低い – 素材費(天然タンニン)も高め | – 工業的大量生産に適し、コストを抑えられる |
染色・フィニッシング | – ナチュラルカラーを生かしたアニリン仕上げが多い – 表面の個体差が出やすい | – 化学染料で豊富な色展開が可能 – ムラが少なく均質化しやすい |
エイジング(経年変化) | – 大きく変化し、ツヤ・色合いが深まる – シミや傷も味として残る | – 比較的変化は少ない – 色や質感は長く安定して保たれやすい |
環境負荷 | – 植物タンニンを用いるため自然派とのイメージ – 排水中の有害化学物質は少ない | – クロム廃液の処理が課題 (適切処理で問題は減少しているが・・・) |
総じて革を鞣すのにコストが掛かり、また原皮の表情が残りやすいのがタンニン鞣しの特徴です。
しかし、良い革をタンニン鞣しで鞣すと、非常に風合いある革に仕上がります。
オイルドレザーの効果
さらに、バケッタレザーの場合は「牛脚油」などのオイルをふんだんに添加することで、
オイルを添加する意味・効果
- 保湿と柔軟性の向上
- 植物タンニン鞣しの革は、鞣し後は比較的硬め・パサつきがち。オイルを添加することで、革繊維に油分が行き渡り、柔軟性を高めるとともにしなやかさを保ちやすくします。
- 耐水性・耐久性のアップ
- オイルが革の繊維間に入り込むことで、水分や汚れが染み込みにくくなり、水や傷に対する耐性が高まります。
- 色味・経年変化の深み
- オイルを含んだタンニン鞣し革は、色の深みやツヤが増し、エイジング(経年変化)によってさらに味わいが出やすいという特徴があります。
といった点が特徴。
通常のタンニン鞣しで作られたヌメ革の多くは、水分と油分を乳化させた状態で革に脂を入れていきますが、バケッタ製法は水を使わずに時間を掛けて浸透させるため、非常に手間のかかる工程を経て製造します。
一般的なタンニン鞣しの革と比べてオイルを多く含浸させ、しっとりした質感に仕上げることで、エイジングも楽しめる革になります。
バケッタレザーの場合、他の国や地方で行われる“タンニン鞣し+オイル仕上げ”とは、オイルの量や種類、工程が異なり、風合いや硬さ、エイジングの仕方にも違いが出ます。
「革感」ある表情と手入れ方法
バケッタレザーの表情と変化
Image Photo by TSUCHIYA KABAN
これらの結果として、バケッタレザーは総じて、使い込むことによる非常に美しいエイジングも特徴です。
タンニン鞣しと高いオイル含有量が織りなす独特の深みやツヤにより、少し馴染むと艶感が増して柔らかくなります。
また、色合いも購入当初は比較的明るめ・ナチュラルな色合いでも、数か月~数年かけて飴色やキャメル色、ダークブラウンなどへ徐々に変化していきます。
上記はTSUCHIYA KABANの「バケッタ・ミリングレザー(バケッタレザーのひとつ)」を使用したブリーフケースです。
手の油分が染み込み、オイルと反応することで自然な光沢が生まれる表面がわずかに滑らかに整い、触れる頻度が高い箇所ほどツヤが強く表れます。
バケッタレザーの手入れ方法
そして、バケッタレザーの手入れ方法は、シンプルなものでOKです。
ドレスシューズに用いるボックスカーフなどとは異なり、あれやこれやとケア商品を使うよりも、「ブラッシング」と「たまのクリーム」、そして使うときの手からの油分などで変化を楽しむレザーです。
「あくまでナチュラルなものをナチュラルに使う」のが、カッコいいと思います。
エイジングを楽しむポイント
- 使用環境・メンテナンス
- 適度に乾拭きしてホコリを落とし、必要に応じてレザーオイルやクリームを薄く塗布する
- 過剰な量を塗ると油シミになるため注意しながら、2~3か月に一度のペースでメンテナンスすると◎
- 手の油と摩擦
- 手の油分や摩擦によって革表面が磨かれ、ツヤが増していく
- 使い込む部位(手がよく触れる部分や折れ曲がる箇所)ほど、色・艶が集中して変化するため、そういった変化を楽しみたい人向け
- 紫外線・熱の扱い
- バケッタレザーは自然素材のため、日光や熱源にずっと当て続けると色焼けや乾燥が加速する
- 逆にエイジングを進めたい人の中には、日常使用の中で程よく日光に当たるように使う革マニアも
- (個人的には、そこまでしなくても自然に使っていくのが良いと思います!)
ちなみに、バケッタレザー用のクリームは基本的に無色透明な、油分を加えられるものがオススメです。
下記のコロニルのクリームなどが良いと思います。
バケッタレザーの世界|レザーの種類と代表的な商品を紹介
次に、「バケッタレザー」を生み出している代表的なタンナー&ブランド革、代表的な商品について紹介します。
コンチェリア・バダラッシ・カルロ社・・・プエブロ/ミネルバボックス
Image Photo by GANZO
バケッタレザーを製造する中でも特に有名なタンナーが、バケッタ製法を現代に甦らせたコンチェリア・バダラッシ・カルロ社です。
同社創業者のバダラッシ・カルロ氏は当初、他の革と比べても生産量が少なくなることや、価格が高くなってしまうことからブランディングに苦労したそうです。
代表的レザー
- Pueblo(プエブロ)
マットで独特のざらっとした質感と、ムラ感のあるカラーリングが特徴。使い込むほどにツヤが増し、色が深まるダイナミックなエイジングを楽しめる。 - Minerva Box(ミネルバボックス)
しっとりと柔らかく、ややシボ感がある。最初から手に馴染みやすい触り心地で、エイジング時のツヤ感も秀逸。
使用ブランド・アイテム例
Image Photo by GANZO
- GANZO(ガンゾ)
- 代表的商品:ミネルバボックスやプエブロを使用した財布・カードケース・キーケースなど
- 特徴:日本のハイエンドレザーブランド。バダラッシ・カルロのレザーと日本の丁寧な縫製技術の融合で、質感の高さと耐久性を兼ね備える。
- リティスタ
- 代表的商品:プエブロのハンドメイドウォレットやパスケースなど
- 特徴:独特のムラ感やマットな質感が、手縫いのクラフト感と相性抜群。自分好みの一品を見付けられる。
- HERTZ(ヘルツ)
- 代表的商品:ミネルバボックスのトートバッグやリュック、ペンケースなど
- 特徴:シボ感やシワ、柔らかさを前面に出し、良好なフィット感や手触りを与えつつ長年愛用できる耐久性を確保している。
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コンチェリア・ワルピエール社・・・ブッテーロ
Amazonより引用
代表的なレザー
- Buttero(ブッテーロ)
均一で美しい銀面と多彩なカラーバリエーション、ハリとしなやかさのバランスが魅力。
使用ブランド・アイテム例
Amazonより引用
- キプリス(CYPRIS)
- 代表的商品:ブッテーロを用いたベルトなど
- 特徴:GANZO、TSUCHIYA KABANと並ぶ日本のハイエンドレザーブランド。「ブッテーロ」を用いたベルトはハリが強く、しなやかな手触り。カラー展開が豊富&ベルトカット可能で、ピッタリの一本に。
- ソット(sot)
- 代表的商品:ブッテーロを用いたラウンドファスナーなど
- 特徴:2002年に創業。財布、バッグ、革小物やステーショナリーなどメイドインジャパンにこだわるレザーブランド。
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コンチェリア・テンペスティ社・・・エルバマット
Image Photo by TEMPESTI
代表的なレザー
- Elbamatt(エルバマット)
牛の原皮の中でも繊維密度や強度が高いベンズ(尻部)の中央部分を使用したバケッタレザー。非常にオイル含有量が多く、使い始めのマット感から徐々に艶が増していく緩やかなエイジングが特徴。
使用ブランド・アイテム例
Amazonより引用
- テンペスティ
- 代表的商品:エルバマットのペンケースやコインケース、キーホルダーなど
- 特徴:多色展開がお家芸のタンナーによるPB。使い込みによる光沢感の増し方が緩やかなので、長期的にじっくりと育てたい方に最適。
コンチェリア・ラ・ペルラ・アズーラ・・・アラスカ
Image Photo by KAWAMURA LEATHER
代表的なレザー
- ALASKA(アラスカ)
フルグレインの銀面を活かしたナチュラルな表情が魅力。蝋引き加工がされている革で、地の色に白色が混ざり合っている複雑な表情が特徴的。
使用ブランド・アイテム例
Amazonより引用
- キソラ(kissora)
- 代表的商品:アラスカを採用したウォレットシリーズ
- 特徴:東京都墨田区・スカイツリーのお膝元にある商業施設 東京ソラマチの開業と同時に立ち上がったレザーブランド。時間にキスをする、kiss+ora(イタリア語で「時間」)がブランド名の由来。
シルバノラッタンジ×バケッタレザーのサイドゴアブーツを紹介
そして、同じく「バケッタレザー」を用いた私物のブーツを紹介します。
今回ご紹介するのが、シルバノラッタンジのサイドゴアブーツ。
かつてタンナーであった、グイディの「バケッタリバース」を用いたブーツです。
(シルバノラッタンジの紹介はこちら。)
GUIDIのバケッタレザーを使用したブーツ
今でこそファクトリーブランドとしての知名度が高いグイディ(GUIDI)ですが、元々は1896年にトスカーナ地方に設立されたタンナーです。
社名は元々、コンチェリア・グイディ・ロゼリーニ社(CONCERIA GUIDIE ROSELLINI)といいます。
先述のタンナー同様、バケッタレザーをハイブランドなどに卸していました。
グイディは今でこそブランドのイメージが強いですが、「バケッタレザー」の中でも個性的×高品質な革を製造していました。
2005年秋冬シーズンからルジェロ・グイディがブランドをスタートさせ、現在では高価なブーツ類が代表的ですね。
裏革を用いた「バケッタリバース」の独自性
中でも、裏革を用いた「バケッタリバース」は個性的かつ実用性も高い革のひとつ。
いわば、スエード版のバケッタレザーです。
スエードは表革と比べて油分を保持する力が強い革ですが、オイルのしなやかさとスムースレザーにはない独特な表情が、この革にしかないユニークさを感じさせてくれます。
昔はシルバノラッタンジ/ジンターラの主力プロダクトのひとつで、カーフやシェルコードバン同様、多くのモデルに採用されていました。
残念ながら、今ではグイディブランドのブーツ以外では見なくなってしまった革です。
最高峰の作りと最高峰の革の融合
360°グッドイヤー・ウェルテッド製法ならぬ、360°ハンドソーン・ウェルテッド製法。
シルバノラッタンジならではの、こちらも今ではほとんど見られなくなった既成靴の作りです。
まさに、最高の靴ブランドが作った、最高のバケッタレザーのブーツです。
こちらのブーツですが、元々はミディアムブラウンだったカラーを(自分で)バーガンディに染め変えています。
青っぽいベージュやチャコールグレー、黒のニットにもよく合うカラーだと思います。
終わりに|バケッタレザーは変化をしながら超保つ“一生モノ”レザー
今回は以上です。
バケッタレザーは、長く使うほどに味わいが増すオイルドレザーです。
ドレス用途としてはあまり用いられません(特にシューズ)が、使う内に変化を楽しめる点が「長年愛用したい」と思える革になってくれます。
イタリアンレザーの伝統に裏打ちされたストーリー性だけでなく、革が革である理由を教えてくれる。
独特のしっとりとした手触りと、艶やかな経年変化が、合皮にはない付加価値を、本革の中でも特に、ありありと見せつけてくれる革です。
また、バケッタレザーはブラッシングとオイル補給を適切に行うことで、非常に長年保つ革でもあります。
“一生モノ”というものは実際には存在しません。
しかし、牛革30年と言われる中でも、バケッタレザーはメンテ次第で、余裕でそれ以上保つ革であることも、間違いありません。
ぜひ、「革」を大切に愛用してみませんか?
おしまい!
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