【価格差30倍】9万円と3千円のシャツを本気で比較する【ジルサンダーvsユニクロ】
こんにちは。しょる(@SHOLLWORKS)です。
突然ですが、
シャツって違いが分かりにくくないですか?
「全く分からない!」とまでは、いかなくとも
「ハイブランドは(何となく)生地にツヤ感がある」
「ユニクロはコスパ最強!」
服に興味のある人でも、大体はこのくらいの印象だと思います(概ね正解です)。
ただ、何となく違いがある気はしても、隅々まで具体的な指摘をしているようなマニアックな情報って中々ないですよね。「シャツはランニングコスト重視の消耗品」と考えている人が多いことも手伝っていると思います。
だからこそ今回は、私が圧倒的に価格の違う二枚のシャツを比較します。比較にあたり、ハイブランドを代表してジルサンダーと、廉価品を代表してユニクロのシャツを用意しました。
Image Photo by JIL SANDER
折角の機会ですので、今回はジルサンダーの中でも、特別ラインのシャツをご用意。
販売価格、なんと88,000円(税込、記事執筆当時)。
複雑な柄やギミックが付いているような“コレクションモノ”ならば、あり得ない価格ではありません。しかし、プレーンな白無地のシャツでこの価格は衝撃的ですよね。私も滅多に見かけません。
既成シャツならば、フライやチリエッロ、マリア・サンタンジェロのような、いわゆる“カミチェリア”の方が“ハンドメイドを多用してクオリティも高いです。しかし、製造工程が異なることや知名度の関係上、今回はマシンメイドのシャツ同士で比較します。
先に言っておくと、
「ユニクロは値段を考えると素晴らしい!」
と言う意見は、今回は封印します。
約30倍の価格差ですが、無慈悲に“モノ”としての差を見ていきます。だからこそ、ユニクロに辛辣なことも言っています。2,990円にしては十分凄いということは前提の上で、お読みください。
それでは、マシンメイドのシャツ同士で“ガチンコバトル”してもらいましょう。
ジルサンダー(JIL SANDER)7days shirt “MONDAY”(88,000円)
まずは、ジルサンダーのシャツからご紹介。
7 days shirts は、2018年にジルサンダーのクリエイティブ・ディレクターに就任した「ルーシー&ルーク・メイヤー夫妻」が手掛けるカプセルコレクション。ジルサンダーの代表的なアイテムである白シャツを、それぞれの曜日をイメージしたアイテムに仕上げています。
メンズ&レディースでそれぞれ7型ずつ存在(記事執筆当時)し、公式オンラインからも購入することができます。購入時に専用のガーメントケースも付けてくれました。
今回、7つのモデルの中から選んだのは、最もベーシックなモデルの“MONDAY”。小さめのレギュラーカラーに、やや細身のストレートシルエット。フロントボタンは、第一ボタン以外隠されている仕様の比翼仕立て(フライフロント)になっています。
ユニクロ(UNIQLO) ファインクロスストレッチスリムフィットブロードシャツ(2,990円)
次に、ユニクロのシャツをご紹介。
ファインクロスストレッチスリムフィットブロードシャツと言う、何だかやたらと長い名前です。こちらは店頭販売に加え、オンライン限定でセミオーダーが可能です(実際は既成服ですが)。
今回は、181cm70kgの私のサイズに合わせるためLサイズをベースに、ネックサイズを41cm、丈行きを88.5cmにしています。スリムフィットといっても細すぎず、また着心地が損なわれないようにポリウレタンが混紡されています。
ユニクロは、幅広い人に着てもらえる商品づくりが最優先のブランド。個人的には首周りと袖丈、身幅のバランスでしっくりくるものがありませんでしたが、今回のフィット感はそこそこいい感じです。
実際に各部門の比較をしてみる!
生地編|綿の繊維長や、糸の「番手」「撚り」などが特徴を決める
シャツに使用される綿生地で「高品質」と言われる目安としては、概ね“100番手双糸”以上と言われています。番手は糸の太さを表しており、数字の大きさと糸の太さは概ね反比例関係にあります(例:100番手は50番手の約半分の太さ)。
また、双糸とは繊維を撚って作った2本の糸同士を、さらに撚り合わせて作った糸のことです。綱引きの綱をイメージしてもらえれば分かりやすいかもしれませんが、糸同士を撚り合わせない単糸よりも引っ張り強度が上がります。
厳密には、番手=品質というわけではありません。しかし、糸はコットン繊維を撚(よ)って作られますが、細い糸を作るためには、繊維の一本一本が長くなければ撚れません。つまり、必然的に番手の高い(=細い)糸を作るには、一本一本のコットン繊維が長い(=品質が高い)必要があります。
加えて、繊維の天然撚りの強さ(回数)や糸にする際の撚り、生地の目付なども重要な指標です。
まず、天然撚りの回数が多ければ、強く、コシがある糸が生まれ、さらに繊維から糸を強めに撚ることで摩擦や毛羽立ちに強くなります。また、番手の高い糸で織られた生地は、そのままでは薄く隙間が大きくクタクタになってしまいます。糸を重ねて布にする際、目付け(織密度のこと)を適度に多くすることで光沢感とハリ感が表れ、しなやかなのに強い生地が生まれます。
このジルサンダーのシャツは、エジプト綿という最高級品種の繊維を140番手双糸程度の強撚糸にしています。さらに、シャツとしては密度の高い目付で生地にすることで、全体がパリッとしていて光沢感が強い生地へと仕上げています。単に細い高級繊維を用いたり番手の高い糸を使用しているだけでなく、糸の撚りや目付とのバランスがとても良い。つまり高品質な生地へと仕上がっています。
一方、ユニクロは100番手双糸を使用しています。これだけ聞くと「なかなかやる!」なのですが、綿糸の天然撚り糸にする際の撚りも密度が甘く(薄いこと=悪いことではないのですが)ヘロヘロです。
しかも、大量生産のために綿花を機械で収穫するため、コットン繊維が傷んでしまうのをトリートメント剤を使用して綺麗にしています。実際に使用すると、100番手双糸クラスの生地にしては妙にいなやかな光沢感に欠けてボソボソとしています。また、摩擦にも強くないため、すぐに袖先や脇の内側が毛羽立つ生地になっています。
確かに「100番手双糸」の看板に偽りはないのですが、どうしても生産性重視であるため、その行間にあるものが疎かになっています。ユニクロ特有の「スーピマコットン」や「メリノウール」といったキャッチーなワードも同様ですが、残念ながらハイブランドに供給されるような生地とは同じレベルではありません。
副資材編|ボタンの品質差が圧倒的
ボタンに関しても大きな差がありました。(ブランドにも依りますが)シャツのボタン一個あたりの原価が50円違うと、販売価格は大体1,500~2,000円くらい異なります。
ユニクロの場合はそこまで上乗せされないものの、コスト重視で完全に妥協している部分であることは否めません。
ジルサンダーのシャツに使用されているのは、真珠母貝を削って作られる白蝶貝ボタン。
名前の通り真珠を育てる二枚貝から採れるボタンで、一般的なシャツの最高級ボタンです。写真からも、僅かに虹色に光るのがお分かりいただけるでしょうか。
さらに、ボタン付け糸の生地とボタンの間部分が螺旋状に巻かれているのが見えます。根巻きといって、(ちょっとしたこだわりですが)ボタンが少しだけ浮いて、掛けたり外しやすくなっています。
一方、ユニクロは樹脂(ポリエステル)ボタン。
最近の樹脂ボタンは、かなり白蝶貝に似せられるように作れます。しかし、ユニクロのボタンのクオリティは、まだまだ改善点があるレベル。複数色展開でもボタンを全部白にしている商品も見られますが、そこも含めて完全にコスト重視で見た目を妥協しています。
この辺りは、今後の進化に期待したいところですね。
縫製編|ステッチの細かさ&丁寧さ
全体的な縫製を見渡した感想
縫製に関しては、ユニクロはかなり頑張っている部分です。価格比で考えられない縫製が「ユニクロは高品質」と言われている理由の一つですし、ジルサンダーのシャツもマシンメイドであるため縫製の工程はほぼ一緒です。ここは、もう少し、ジルサンダーに価格的にも頑張ってほしい&根本的に差のある部分ではないと思いました。
ただし、ユニクロは縫製の丁寧さにバラツキが大きいです。というのも、大量生産であればあるほどスピード重視にならざるを得ません。比較に際して5枚購入しましたが、台襟や袖部分などが雑な個体も見受けられました。ロット数を考慮すれば十分なレベルではあるものの、納期や縫製工の熟練度によってはスピード重視な部分が出てきてしまいます。
蛇足ですが、日本のデザイナーズブランドだとオーラリー(AURALEE)などの縫製は非常に綺麗な印象を持っています。
上襟部分について
ジルサンダーのシャツは上襟の端から1mm内側を縫っており、写真のユニクロは5mm内側を縫っています。特にビジネス用途のシャツは、大半が後者の仕様になっています。実際、ここは優劣よりもデザインの問題です。
ユニクロのこのシャツに関しては、コンセプト、襟の大きさ、生地の特性・・・5mm内側を縫うことは間違いではありません。しかし、ユニクロはカジュアルシャツでもビジネスシャツでも、ほとんどが5mm内側で縫っていませんか?
端のギリギリを縫えばスピードは落ちます。ユニクロにとっては(生産スピードは命ですから)どんなシャツでもやりたくない仕様です。しかし、服はステッチを掛ける場所も立派なデザイン。そういったところで融通を利かせられない部分はどうしても制約が大きく、生産効率とトレードオフになっています。
前立ての裾部分について
細かい部分では、前立ての裾部分の仕様が異ります。
左がジルサンダー、右がユニクロです。機能的には何も変わりませんし裏側の全く見えない部分ですが、服作りは「こういうこともできる技術」の価値を、さり気なく見せる世界でもあります。
市場にあるシャツの99%はユニクロ同様、単純に端を三つ折りにして縫う仕様。一方、ジルサンダーは一度裏返して縫い、余分な部分をカットしてから元に戻す工程。ひと手間掛かりますが、厚みが出ないのでスッキリして見えますね。
パターン編|立体的な仕上がりの差
ファッションにおいて、服の設計図であるパターンは極めて重要です。ちょっとした差が、僅かな見た目や着心地に違いをもたらします。
布は縦と横の糸で構成されますが、斜め方向は伸びるので縫製しづらいという特徴があります。生産効率を重視するのであれば、なるべくカーブを描かずにパターン設計をすることが求められます。
しかし、人体は曲線で構成されています。シャツの場合は一番大きな前後の身頃(体部分のパーツ)は(基本的に)平面ですが、縫うことによって自然な形で全体に曲線を生み出す箇所が、身頃と繋がっている台襟とアームホール。この2か所が適切な曲線を描くことで大きなパーツである身頃が連動し、首のフィット感や肩にふっくらと乗る感覚、そして腕の動かしやすさに繋がります。
台襟のカーブラインの違い
第一ボタンを閉めた際、首に巻きつく台襟部分のカーブを見ると、大きな違いがあります。ユニクロは台襟のカーブの角度が浅く、ペタッと寝ているため、結果としてシャツ全体も平面的になってしまいます。
この台襟だと、第一ボタン部分を締めてもボタンが首の下部分に来て収まりが悪くなる。さらに、ネクタイを締めた際にもノット(結び部分)が寝てしまうので全体的に見栄えが悪くなるシャツになってしまいます。
一方、ジルサンダーのシャツは、台襟が自然と立ち上がるくらいの曲線を描いています。ネクタイを締めるシャツではありませんが、こうすることでボタンを留めたときの収まり方はもちろん、身頃の生地が肩や胸の厚みに沿って丸くなってくれます。
アームホールと腕の上げやすさに差
身頃と袖の境界である、アームホール部分にも大きな差がありました。特に、脇にかけてのカーブが重要で、ジルサンダーのシャツの方がカーブがきついのがお分かりでしょうか。
2枚のシャツの身幅はほぼ一緒です。ジルサンダーのシャツはアームホールが肩に入り込んで、脇部分で再び曲がっています。これによって、脇に身頃側の生地が集まり、腕が上げやすく仕立てられています。
一方、ユニクロはポリウレタン素材の伸縮性で、何とか対応している印象です。アームホールの全長が短く、カーブも少ないために素早く縫えるのですが、腕を上げるとかなり突っ張ります。生産効率を考えると、なるべく布が伸びる斜め方向に縫製をしたくないのですが、立体的な人体に合わせるためには避けて通るべきではない仕様です。
終わりに|99.9%の消費者は、価値の差を知らない
今回は以上です。
個人的にもユニクロは素晴らしいと思いますし、国民のファッションの平均レベルを上げるのに対して大きな貢献もしていると思います。前置きで書いた通り、一切ヘイトや恨みがあるわけでもありません。
ただ、「ユニクロこそ最高!」と思っている人の99.9%は、今日私が書いた内容を知らない筈です。
そして、「ハイブラ最高!ユニクロなんて着ない!」という人も同様ではないでしょうか。つまり、本当にモノの価値の差を知って選択しているかといえば、そうではないのでは。
服の世界は、消費者にとってレモン市場です。イメージが先行し、高度に合理化された社会の中でもブランドという「ファッションの魔法」は存在します。それは勇気や自信を与える良い面もあれば、思考停止させる悪い面もありますし、ブランドタグが合理的な判断の機会を奪っている面は否定できません。
それに左右されたくない、合理的でありたい人が、ユニクロを支持する心理も理解できます。
しかし、私はそのアンチテーゼとして「ユニクロだけが素晴らしく、ブランド品や高級品に意味がない」と言うのも一概には言えないと思います。本当に合理的な選択をするのならば、それぞれの違いをキチンと知った上で選択してほしいという気持ちもあります。
だからこそ、私は可能な限りの知見をお伝えします。それが私の目指す、「ファッションリテラシーの向上」です。