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総裏/背抜き/半裏の違い|裏地の役割から読み解く、ジャケットの選び方も解説

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こんにちは、しょる(@SHOLLWORKS)です。本日は、テーラードジャケットにおける裏地につい「総裏」「背抜き」「半裏」という仕様について。

紳士服に詳しくなってくると、何となくジャケットの「総裏」「背抜き」「半裏」といった仕様を耳にするようになると思います。

それぞれ、裏地の付き方における仕様ですが、具体的に、どのような仕様を指すのでしょうか?

SHOLL
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今回は、裏地の役割をおさらいした後に、ジャケットを選ぶ際、どの仕様を選べば良いかを解説。

シチュエーションや素材ごとに最適解は変わりますが、それぞれ詳細をお話します!

目次

裏地の役割|なぜ裏地が付いている?

まず、裏地の役割について。そもそも、なぜ裏地が付いているのか不思議に思ったことはありませんか?

裏地の役割は、主に3点に大別されます。

  • 着心地を向上させる
  • 汚れの直接付着を防ぐ
  • 型崩れを防ぎ、見た目を整える

それぞれ、解説します。

着心地を向上させる

 

裏地の役割としてはまず、着心地を向上させること。裏地には滑ることで袖を通しやすく、着脱を容易にするという役割が与えられています。

さらに、着用時の動く際にも、表地との摩擦が起きないように滑ってくれます。裏地のお陰で着易く、着心地の良いジャケットに仕上がります。

(デザイナーズブランドのジャケットは例外も多いのですが)テーラードジャケットは本来、ジャストフィットで着用するもの。だからこそ、裏地がなくて滑ってくれないと、非常に着脱しにくい構造になっています。

汚れの直接付着を防ぐ

また、裏地には「防汗・防汚」の役割も与えられています。ジャケットは一部のウォッシャブルなものを除き、基本的に丸洗いできません。そこで、裏地が表地と人体の間にあることで、汗や汚れが表地に移りにくくしてくれます。

さらに、裏地は身体から発散される水分に対して、通気性や放熱性などにも寄与します。裏地があることで快適な着用に繋がるため、基本的には要所要所に適切な裏地があった方がベターです。

スーツ全体の見た目を整える

最後の大きな役割としては、スーツ本体の「見た目を整える」こと。つまり表地だけでは力が加わって変形してしまうのを、裏地が優しく縫い付けられて支えることで「保形」させるものです。

つまり、裏地は骨や筋肉を支える「筋膜」のような役割を果たしています。また、大抵の裏地は表地より脆い生地でつくるようにされています。

これは、裏地はいざという際に表地の代わりとして「犠牲」になるためです。丈夫な生地を裏地に採用してしまうと表地が傷みやすくなるため、あえて滑りやすい&裂けるような生地で作られています。

ジャケットの「総裏」「背抜き」「半裏」について解説!

「総裏」とは

Image Photo by BEAMS

「総裏」とは、テーラードジャケットの裏地が袖だけでなく身頃の前側、そして背中側の裾まで付いている仕様のこと。

全部裏、だから「総」裏です。総裏はあらゆる箇所に裏地が付いているため、とにかく摩擦が起こりにくいことがメリット。裏地の役割からも、最も耐久性の高い仕様になります。

一方、裏地がポリエステルや絹などの熱を溜め込む素材の場合、上手く空気を入れ替えられないというデメリットもあります。また、素材次第では静電気も起こり易くなるので、着脱時のストレスの原因に。

「背抜き」とは

BEAMS 公式HPより引用

「背抜き」とは、背中の肩甲骨あたり~裾までの裏地が省略された仕様を指します。写真の通り、背中部分の大半に裏地がないのがお分かりいただけると思います。

(僅かですが)総裏と比べ、通気性が高くなることが特徴。しかし、この部分は背中がジャケットに張り付かないため大差は感じられない場合がほとんどです。

また、裏地によって支えられる部分が少なくなるため、総裏と比べると型崩れはし易くなります。

「背抜き」は、ヨーロッパのテーラー、特に、総裏が盛んな英国ではほとんど見かけません。

基本的に「総裏」でないものは、後述で紹介している「半裏」仕様が中心です。あるいは、身頃の裏側に表地の面積を大きく取って、裏地を身頃に使用しない「アンライン」仕様のもの多いですね。

とはいえ、イタリアブランドの日本市場に向けたものの中では稀に見かけることもあります。写真はアットリーニですが、背抜き仕様になっていますよね。

「半裏」とは

Image Photo by BEAMS

「半裏」とは、「背抜き」の裏地をさらに減らした仕様。写真を見ると、前身頃についている脇の下から裾にかけて、裏地がカットされているのが分かると思います。

基本的には、背抜きよりさらに涼しくしたい「盛夏用のジャケット」という位置付けです。(日本ではクールビズなどが普及しているため、そもそもジャケットを着用しない場面が多いですが!)

裏地だけでなく、表地や中に入っている芯地も薄手であったりと、全体的に軽やかな作りになっているものが多いです。

とはいえ、近年は冬用のコートでも「半裏」仕様を見かけます。

これは、芯地や肩パッドなどを省略した「アンコンジャケット」や、ウォッシャブルな化学繊維による機能性素材が普及したことなどが理由です。

いずれにせよ、「半裏」は夏だけのものではなくなりつつあります。あくまで服の「季節感」は、表地の素材感で判断するべきもの。表地がオールシーズン用であれば「秋冬で背抜きはおかしい」とは言えません。

裏地の素材について解説!どんな素材が良い?

Image Photo by BEAMS

裏地の素材は、「ポリエステル」「レーヨン」「キュプラ」「絹」などが使用されます。

レーヨンとキュプラは近しい性質を持つため、ここでは3種類の裏地素材について言及します。

ポリエステル|耐久性◎ 放熱性× 静電気防止×

ポリエステルは、裏地の中で最も一般的な素材。比較的廉価なだけでなく、縫いやすいので広く使用されています。

高い耐久性というメリットがある一方、吸湿性が低く、熱を身体に溜め込みやすいという欠点があります。また、帯電もしやすいため、特に乾燥する季節に“バリバリ”しがちな点もデメリット。

キュプラ|耐久性△ 放熱性◎ 静電気防止◎

キュプラは再生繊維の一種で、別名銅アンモニアレーヨンとも呼ばれる素材。

耐久性こそポリエステルに劣るものの、吸湿性が高く静電気防止力も高く、見た目もシルクに近く美しいことが特徴です。

その他、土に埋めることで分解されるエコロジー素材でもあります。トータルバランスでは最も裏地に適した素材です。キュプラの中でも日本の旭化成のブランド「ベンベルグ」は非常に有名です。

絹|耐久性× 放熱性◎ 静電気防止× 高価

シルクは代表的な高級素材として、和装の世界でも愛用されてきました。とにかく見た目の美しさと、「シルクを使用しているという“高級感”」がメリットの素材です。

一方、摩擦も起こり易く、耐久性は低め。しかも、帯電もしやすいです。その上、経年で黄変しやすく虫にも食われやすいので、裏地としての機能性や耐久性はいまひとつです。

SHOLL
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もちろん、シルクは「肌触り」に優れています。しかし、通常はシャツなどセルロース系の繊維が間に入るため、そこまで優位性がありません。コストや実用性の面からも、今では、裏地としてはほとんど見かけなくなりました。

裏地の疑問|総裏/背抜き/半裏どれが一番良いの?

 

ここまで、裏地の素材と仕立ての仕様を解説しました。素材はキュプラが最も優秀と言えそうですが、仕立ては一体、どの仕様が最もオススメなのでしょうか?

結論、迷ったらキュプラ×総裏が(オールシーズン着るなら)オススメ。しかし、「半裏や背抜きだから見送り」という程の差はありません。

そして、理想はシーズン毎に着分けることだと思います。同じスーツを年中ずっと着ると傷むのも早いので、普段からスーツをお召しになる方は、「中厚地の表地×総裏」や「薄地の表地×半裏」など、キチンと着こなすのがベストです。

ウール素材の場合、裏地がキュプラなら「総裏」

裏地素材がキュプラなら、「総裏」がオールラウンドにはベターです。なぜなら、キュプラは放熱性に優れているため、「総裏」でも通気性の悪さが気にならないからです。

日本の都市部は夏が長い地域が多いため、一見「背抜き」「半裏」が適していそうではあります。確かに、「真夏でも意地でもジャケットを羽織る!」という方は「総裏」である必要はありませんが、一方でクールビズも普及しました。

クールビズの導入によって、5月~10月までジャケット自体を着用しない方が多くなっています。そういった方の場合、オールシーズン用は春、秋、冬を意識したものをチョイスすると◎です。静電気防止力の高いキュプラが裏地の場合、「総裏」でもバリバリしにくいため、他の条件が同じならば良いと思います。

耐久性の高い表地&裏地がポリエステルなら「背抜き」

裏地がポリエステル素材の場合、「背抜き」がオールラウンドには良いと思います。むしろ、裏地がポリエステルの場合、「総裏」である方がメリットが小さいと思います。

なぜなら、ポリエステルという素材は放湿・放熱性に劣る素材だから。「熱を溜め込む」と聞くと暖かそうですが、湿気も溜め込むため、あまり気持ちの良いものではありません。

適度に熱を逃がしてあげる方が、衣類としては快適です。ちなみに、廉価なスーツの代表格である、ユニクロの「オーダーメイド感覚スーツ」も背抜き仕様です。

「半裏」がオススメのシチュエーションは?

「半裏」がオススメのシチュエーションは、

  • 温帯な地域のオールシーズン用にしたい
  • 表地が綿や麻、ソラーロのようなジャケットで、春夏の素材感を内側からも演出したい
  • 秋冬用でも軽やかな仕立て感を前面に出したい

など。

軽やな雰囲気や、秋冬用の表地の場合も、あまりがっしりとした雰囲気を与えたくない場合に採用されます。

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(同じ表地で「総裏」仕様と比較するなら)「どちらかというと春夏に近い」くらいのニュアンス。半裏=春夏物ではないので、あくまで、表地の素材感で季節感を考えるのが正解です。

オールシーズン用の3ピーススーツの場合は?「総裏」「半裏」どちらでも良い

3ピーススーツ(テーラードジャケット/パンツ/ベストのセット)の場合、「総裏」「半裏」どちらでもOKです。

ベスト自体は防寒のためのものですが、大抵、ベストの背中部分には裏地素材が使用されている筈です。つまり、ジャケットが「半裏」でも滑ってくれます。

また、ベストがあることで、ジャケットの背中部分を覗いても透けにくい点も◎。冬も比較的温暖な都市部であれば、「夏はベストを着ないで、秋冬はベストを着用して3ピーススーツにする」という着方も良いですね。

終わりに|身も蓋もない話をすれば、あまり大差ない

今回は以上です。正直、裏地の仕様が「総裏」「背抜き」「半裏」の差でスーツの耐用年数が10年上がったり、体感温度が5℃異なるなどといった「大差」はありません。

そもそも、ジャケットの季節感は表地の素材感で選びますし、裏地の仕様で悩むのは「オールシーズン向けで、これ一着でスーツは大丈夫なものを購入したい人」だと思います。

個人的には、「総裏」の方がカッコいいと思えますし、源流的であることも事実です。クールビズが導入されている企業にお勤めなら、「総裏=暑い」という欠点も気になりません。

ただ、先述の通り、「3ピーススーツ」×「半裏」でオールシーズン対応というのは大いにアリですし、機能的にも説明が付く組み合わせでもあります。

少なくとも、「裏地が総裏or背抜きor半裏だから・・・」といって購入を諦めるのは、ちょっともったいないと思えるくらいの違いでしかありません。

SHOLL
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とはいえ、裏地の役割は大切です。着用していく内に、裏地が擦り切れて交換して、お気に入りの仕様に変更して・・・そして、長年のパートナーになる。現代のマーケティング先行の服では意識がいかない考え方ではあるものの、本来、裏地には、そんな名脇役的な役割が与えられています。

繰り返しますが、裏地と表地の特性を踏まえた上で、「春夏」と「秋冬」で装いを変えることがベストです。

いずれの季節も楽しめるような、名脇役が活きるようなお気に入りのジャケットに出会えることは、とても良いファッションの楽しみ方ではないでしょうか。

おしまい!

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1987年生まれ。国内ブランドを経て、伊ラグジュアリーブランドのデザイナーとして4年間勤務。
現在はデザイナーの他、日本の服飾産業を振興するため、マーケティング支援も行っています。
素材の機能性からパターンまで精通し、シンプルかつ素敵な服装の普及に努めています。



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