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向いていない人
こんにちは、しょる(@SHOLLWORKS)です。寒さ対策インナーは各社から発売されていますが、その中で最も有名な商品といえば、やはりユニクロのヒートテックではないでしょうか。
ヒートテックは2003年の発売以来改良を重ね続け、2017年には累計販売数10億枚を突破。日本だけでなく、世界的なメガヒット商品となりました。
今や、知らない人を探す方が難しいヒートテック。近年はバリエーションも増えてファッション性重視のものや極暖、超極暖といったラインナップも展開されています。
でも、ちょっと待ってください。そもそも、なぜヒートテックは暖かいのでしょうか?
そして、あなたのお肌。ヒートテックを着る前から、そんなに乾燥&肌荒れしていましたか?
誤解のないように申し上げると、ヒートテックは恩恵を受けている人が大勢いる、超社会貢献度の高いメガヒット商品です。商品として素晴らしいことは言を俟ちません。
しかし、少なくとも万人にとって良い商品ではありません。
それを紐解くに、アパレル繊維素材に精通したファッションデザイナーの私が、ユニクロのヒートテックの暖かくなる仕組みと、乾燥&肌荒れの原因を解説します。
【まず最初に】ユニクロのヒートテックが暖かくなる仕組み
ヒートテックの暖かくなる構造は、どの繊維にも存在する「吸着熱」という仕組みを、複数種の化学繊維によって強化したもの。
決して超絶特殊な構造で作られていたりするなどの“魔法”はありません。
具体的には、「素材のレーヨンが体表の水分を吸い上げ(蒸散)、衣類が水分を吸う際に吸着熱という現象が発生し、発生した熱がアクリル繊維によって保温される」。原理的には、たったこれだけです。
繰り返しますが、「体温の熱を閉じ込め、保温する機能」は、どんな服にも多かれ少なかれ存在します。
ヒートテックの場合、極端な能力を持つ繊維に特徴となる機能を担当させつつブレンドすることで、一枚のインナーに高機能性を実現しているのですね。
それでは、それぞれの素材に関して、もう少し深堀してみましょう。
基本的な構造は「複数の化学繊維をブレンドした生地」
実際には、ヒートテックの種類によって若干異なりますが、今回は写真の最もベーシックなヒートテッククルーネックT(9分袖)をピックアップしてみましょう。
多少の素材の配合率や機能は異なりますが、基本的には他のヒートテックや他社競合商品も同様です。
ちなみに、公式HPの商品詳細欄には、
素材
39% ポリエステル,32% アクリル,21% レーヨン,8% ポリウレタン
ユニクロ公式HPより引用
と、あります。
混紡されている各繊維の特性を見ていきましょう。
ポリエステルの特徴・特性
- とにかく強度や伸縮性に優れる
- 生産コストが低く、加工性も高い
- 蒸散性(水分を発散する性質)に優れる
- 静電気や臭いをため込みやすい
ポリエステルは、ポリアルコールと、多価カルボン酸を脱水縮合することで生成される素材。1941年に英国で発明され、日本では「テトロン」という名前でも有名です。
ポリエステルは加工性、染色性に加え、耐久性、伸縮性、速乾性、蒸散性において優秀な特性を持ちます。動きの激しいスポーツウェアの大半がポリエステルで作られており、ヒートテックにおいても同様の機能を担当しています。
ポリエステルは複数種存在しますが、最も産業利用されているのはポリエチレンテレフタレート、略してPET。ペットボトルの素材です。
一方、ポリエステルの欠点としては、臭いをため込みやすい点。また、-に帯電しやすく静電気を発生させやすいことも欠点に挙げられます。
「放置したスポーツウェアの臭いがとれなくなった!」という経験をした方もいらっしゃると思いますが、主にポリエステルの素材特性が原因になっています。
ヒートテックの中でも、抗菌や消臭効果が付与されているものがありますが、これはポリエステル素材が使われている欠点を補う加工が施されたもの。
アクリル繊維の特徴・特性
- 保温性・染色性に優れたウールを意識した合成繊維
- 丈夫で耐久性・対候性が高く、害虫にも強い
- 吸湿性は低く、静電気が起きやすい
アクリル繊維は、石油を小さな孔(ノズル)から圧力をかけて押し出して成型される合成繊維。ウールを意識した素材で、優れた保温性や染色性から秋冬物に使用されることが多い素材です。
非常に高い耐久性を持っています。シワになりにくく、腐食や劣化に強く、しかも燃えにくい。また、さまざまな繊維長や断面に加工可能で、光ファイバーにも使用されている素材です。
一方、吸湿性がほぼなく静電気が発生しやすい上、摩擦で毛玉が発生しやすいという欠点もあります。ちなみに、同じ名前を冠する“アクリル”樹脂(下敷きやパーテーションなどの素材)とは、主成分が異なる別物です。
レーヨンの特徴・特性
- 光沢感が強く、なめらかで肌触りが良い
- 吸湿、放湿性に優れ、水分を吸い上げる
- 静電気が起きにくい
- 吸湿した状態での摩擦に弱い
レーヨンは化学繊維の中でも再生繊維に属する、絹に似せることを目的として作られた素材。綿やパルプといったセルロース系繊維を再利用し、名前は、ray(光線)とcotton(綿)を掛け合わせたことに由来します。
レーヨンは滑らかな肌触りと光沢感、吸湿性が特徴。現在の製法とは異なりますが、最初のレーヨンは1855年に発明された初の化学繊維でもあります。
ちなみに、帝人の前身は帝国“人造絹”絲株式会社、東レは創業時から1960年代くらいまで「東洋レーヨン」という社名でした。吸湿時の摩擦には弱いのですが、光沢感と染色性に優れている&静電気も起きにくい素材です。
ポリウレタンの特徴・特性
- とにかく伸縮性が高く軽量
- 耐摩耗性、耐油性に優れる
- 温度や湿度の変化に弱い
- 加水分解を起こし、自然とボロボロになっていく
ポリウレタンはゴムのような伸縮性を持つ、1930年代にドイツで発明された合成繊維。抗張力や耐摩耗性、耐油性に優れ、伸縮性からシワ回復能力も高い繊維です。
ポリウレタンは他の繊維に織り込み、ストレッチ性を持たせられます。ストレッチジーンズやスキニージーンズなどには、綿に数%のポリウレタンが混紡されていることがほとんどです。
一方、ポリウレタンの欠点といえば経年劣化です。加水分解といった現象が起こり、水に濡れたまま放置するとひび割れたり、表面がポロポロと剥がれ落ちていきます。
ヒートテックは上記繊維のブレンドによって、暖かさを提供している
ユニクロのヒートテックは、先述の4種類の素材をブレンドし、
- ポリエステルの耐久性&速乾性
- アクリル繊維が持つ保温性
- レーヨンの吸水性(&滑らかな肌触り)
- ポリウレタンのストレッチ性
の、特性を組み合わせた商品。実際、ヒートテックの混紡素材に“魔法”は一切ありません。ベースはあくまで素材特性の組み合わせによるものです。
加えて、ヒートテックに使用されるアクリル繊維には(その成型自由度から)保温効果がさらに高まる形状をしています。
そして、ユニクロのヒートテックは、イメージによる価値提供も大きい商品です。「ヒートテック」という名前を聞いただけで、暖かくオレンジ色のホカホカとしたイメージが浮かんできますよね。
【デメリット】ヒートテックで肌荒れや乾燥?原因と注意点について
ヒートテックのメリットについては、説明する必要がないくらいに世間一般に広く知られていると思います。そこで、ここでは乾燥&肌荒れという、ヒートテックのデメリットについて解説します。
ヒートテックのデメリットとは、使用されている「合成繊維の素材特性による人体への影響」が挙げられます。私は陰謀論者でも天然素材至上主義者でもありませんが、あくまで繊維の特性からの客観的事実に基づいた指摘です。
基本的に、天然繊維は種を守る機能性を確保するため、一つの素材で“あれもこれも”カバーする必要があります。コットンなら吸水性が100点、保温性が50点、ウールなら吸水性が50点、吸湿性および保温性が100点といったバランスで構成されています。
一方、化学繊維は人間が意図的に、特定の機能を担うために開発した繊維。どれかを200点にすることができる一方、その反動で0点や10点の要素があったり、思わぬ副産物を生み出したりします。
また、200点のような優秀過ぎる点が、ときに人体にとってオーバースペックになることもあります。たとえ、バランスよく配合していようが、相殺を試みていようが、強すぎる素材特性がヒートテックの欠点にもなります。
強靭な化学繊維が、摩擦で肌荒れ&化学繊維アレルギーの原因に
ヒートテック第一の欠点として、化学繊維の強度が高過ぎて、摩擦で肌が荒れる点。例えば、コットン製品の場合は繊維長が短く、吸湿性が高く、摩擦で毛羽立つために肌に“負けて”くれます。
しかし、ポリエステルやアクリルは非常に強靭で、人間の肌には強すぎるため、どうしても摩擦で肌を傷つけてしまいます。
また、化学繊維アレルギーも気に掛けるべき点です。主に、「接触性皮膚炎患者」と「アトピー性皮膚炎患者」に大別されるそうですが、いずれもポリエステルなどの摩擦によって発症することが分かっています。
ヒートテックに関しては「極暖」シリーズのように、肌面を綿素材だけのものにしたタイプなど、対策がされているものもあります。ご自身の肌悩みに応じて検討してみてください。
ハードなスポーツや、汗っかきには向いていない
ヒートテック第二の欠点として、汗を吸い過ぎると、却って身体を冷やす点。この原因となるのは、レーヨンの吸水性が高く、乾きが遅い点にあります。
レーヨンが肌から蒸散される水分を吸い過ぎると、吸着熱が発生しなくなります。すると、同じく混紡されるアクリルが保温機能を発揮できなくなります(アクリル繊維自体には吸水性がありません)。
結果、水分を溜めるだけの状況に陥り、(汗本来の役割となる)身体を冷やす結果になります。
「いやいや、一緒に混紡されているポリエステルは速乾素材じゃん!」と思われるかもしれません。
確かに、ポリエステルの洗濯後の乾きは、通常の綿100%のインナーより速いです。しかし、吸着熱は吸湿する素材が起こすもの。そのため、吸湿性が低いポリエステル(ウールの40分の1)は、吸着熱を十分に発生さることなく蒸散させてしまいます。
つまり、レーヨンと混ぜて活きるアクリルの保温特性が、濡れ切った状況のポリエステルが混ざっていることで活きまなくなってしまいます。
ヒートテックが効果を発揮するのは、レーヨンの吸水力が限界を迎えない程度に発せられる水分量。つまり、レーヨンの吸水性が限界を迎えた時点で吸着熱が発生しなくなり、逆効果へと変わります。
つまり、ヒートテックは家の中やオフィスワークなど、適度に体表から水分を発する環境で効果を発揮する商品です。
たまに、スポーツの市民大会やバイクのツーリング、登山などにヒートテックを着て臨んでおられる方がいらっしゃいますが、危険なのでやめましょう。
ウールのアウターと着ると帯電し、静電気バリバリマン爆誕
図の素材同士が離れすぎてると静電気バリバリします。やりがちな例は、ウールのアウターにアクリルのマフラーやニットなど。ちなみに人体は綿と絹の間なので、インナーに適した素材が分かります。
— しょる (@SHOLLWORKS) November 10, 2020
肌弱い人は、静電気の皮膚へのダメージ気を付けてください。暖かくなる化繊系の肌着、合わないですよ😌 pic.twitter.com/JMb5pcS1me
第三に、乾燥は静電気が起こりやすい環境を生み出し、静電気は肌荒れを生み出します。「暖かいから」という理由でヒートテックの上に直にウールのセーターやジャケット、あまつさえコートを上から羽織る人もいらっしゃいますが、バリバリ音を立てるスーパーサイヤ人状態になります。
一応、ヒートテックの名誉のために述べておくと、ヒートテック単体では静電気防止加工が施されている商品。初期の商品に比べればバリバリしなくはなってきてはいます。
ただし、完全防止は難しい上に、インナーは静電気が素肌に直接当たるため、肌へのダメージも大きくなります。また、商品単独ではある程度対策されていても、着合わせるものにも対策されているとは限りません。
ヒートテックが合わない人へ|どんなインナー&寒さ対策をすればいい?
ここまでお読みいただければ、「一般的なヒートテックが合わない人もいる」ことはお分かりいただけたと思います。
では、ヒートテックが乾燥&肌荒れする人は、どのようなインナーにすれば良いのでしょうか。「ファッションだけで全て解決!」というわけにはいかないでしょうが、ベターな策をいくつか提示させていただきます。
スーピマコットンフライスVネックT(半袖・2枚組)
まず考えられるのは、コットン100%のインナー。乾燥&肌荒れする方にオススメで、肌への優しさ的にべターな選択肢です。もちろん、化学繊維アレルギーの方にも◎。
しかし、カラー展開が白か黒しかありません。どちらをインナーにしても白シャツを着た際に透けますし、(天然繊維だろうが帯電はするため)上に直接ウールのニット着れば静電気は発生します。
いずれにせよ、着用する際は静電気から肌を守るため、間に透けないトップスを着た上でアウターを着た方が良いですね。白シャツでも透けにくい、ベージュやグレーの販売を希望したいところです。
ヒートテックコットンVネックT(極暖・9分袖)
写真のヒートテックコットンVネックT(極暖・9分袖) に関しては、53% 綿,42% アクリル,5% ポリウレタンという素材構成。
「肌は荒れているけど、それでもヒートテックを愛用したい!」という方への答えがこちら。完全には克服はできていませんが、先述の欠点①および②にある程度対応しており、かなり改良されていると思います。
体表の水分をよく吸うレーヨン&吸わないポリエステルの蒸散性をカットし、肌面全体で熱をため込む構造です。肌面はコットン(とポリウレタン)で構成されており、肌への摩擦によるダメージも軽減されています。
朝夕で寒暖差が激しかったり、暖房が完備されている環境なら暖かいコートでOKでは?
そもそも、乾燥&肌荒れしてしまう人に、本当にヒートテックは必要でしょうか?
オフィスの空調設備が不十分であったり、外にいる時間が長い方なら必要かもしれません。
しかし、一日中暖房が効いた環境にいる人にとって、そこまで必要なアイテムでしょうか?
「電気代の節約!」とか「暖房は乾燥するから!」と暖房類の使用を控えめにするのはもちろん結構ですが、肌荒れが原因で皮膚科に通ったり保湿クリームを買ったりしたら、電気代の節約分が無駄になってしまいます。
「いやいやいや!確かに職場(学校)は暖かいけれど、通勤(学)時は寒いんだ!」とか、「私は寒がりだから!冷えたら良くないから!」とか思う方もいらっしゃるかもしれません。
通学や通勤時だけ寒いのであれば、高機能なアウターを着て首元を締め、暖房の効いた学校やオフィスでは脱ぐ方が合理的です。冷え対策ならシルクの腹巻や、上に着るカーディガンなど選択肢は沢山あります。
もちろん、ヒートテックとダブルで着ても良いですが、一度ご自身の肌環境や生活環境、他の選択肢も検討した上で判断してみてください。
おまけ|寒くなる季節の防寒アイテムを、素材特性から考えるべし
アクリル繊維の存在は否定しません。乾燥肌や髪質を気にする方は、アクリル繊維のマフラーやスヌード、耳当てはやめた方が良いですよ。
今まで書いてきたことの復習になりますが、アクリル繊維の強靭さとウール素材の髪との相性が悪く、静電気が髪にダメージを与えます。
「ヘアケアは入念だけど、首周りの衣類はアクリル製」なんて言語道断です。あなたの肌を思うならば、毛の細いウールorカシミヤのマフラーを選んでください。
終わりに|思考停止で、商品名だけでなびくんじゃあない!
今回は以上です。誤解のないように申し上げておくと、私は「ヒートテックは危険だ!買うんじゃない!」と、言いたいわけではありません。
合う人には立派な商品だと思っています。欲しくて身体に合うなら文句ありません。
しかし、あなた自身や、周りにいる大切な人に本当に合ったものか、一度立ち止まって考えてみる価値は絶対にあります。
意外と身近なところに原因があるかもしれないのに、「肌荒れで苦しんでいる方」、さらには「肌荒れなんてないことにしている方」が多過ぎるのではとも感じます。
そして、(マニアックだろうが何だろうが)知識は、あなた自身や周りの個性を見つめ直す契機にもなります。
私はファッションとは、身にまとう人の幸せあってのものだと考えています。ただ「可愛い」とか「有名」だとか、そんなことよりも重要なこと、あるのではないでしょうか?
おしまい!
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