ポロシャツやフリース、靴下に至るまで。
ユニクロの売り場は毎シーズン、多彩なカラーバリエーションが目を惹きます。
しかし、
と、疑問に持たれる方は多いと思います。
そこで今回は、ユニクロの多色マーケティングについて。
実は、ユニクロの店舗で陳列されている「多色展開」には、マーケティング的な理由があります。
今回は、ユニクロの多色展開がどのように購買行動へ影響を与えているのか、その理由を掘り下げていきます。
ユニクロの売り場作りの秘密や心理的効果を知れば、きっと次に店舗を訪れたときの見方が変わるはずです。
ユニクロの多色展開の秘密は「選択肢」による購買意欲↑
ユニクロが多色展開をする理由。
それは、多彩なカラーバリエーションを見せることによって、「選択肢の多さ」を超えた購買意欲の向上が目的です。
一見すると売れそうにない色までも並べるその背景には、他ブランドから学び、ユニクロのビジネスモデルと融合させた秘密が隠されています。
「選べる楽しさ」と価値観に合わせた選択肢
多色展開を行う理由として、まず挙げられるのが視覚的な楽しさです。
ユニクロの場合、ベーシックでプレーン、シンプルな服が中心です。もし、その上で地味な色だけを展開・陳列してしまうと“複雑さ”が足りず、顧客が店内で「大したものがないな・・・」と感じて飽きる原因になります。
結果として、(実際にどうかはさておき)「良いものがなかった」「つまらなかった」といった印象が残り、リピート率にも影響してしまいます。
しかし、多彩な色彩のアイテムを陳列することで、店内全体が生き生きとした空間になります。
「選べる楽しさ」を提供するだけでなく、なんとなく「雰囲気として楽しい」といった好奇心を刺激します。
また、ユニクロの場合、リーズナブル価格と服のシンプルさから顧客ターゲットを絞り(れ)ません。
だからこそ、「50色フリース」などの多色展開によって、顧客を「よく考えずに流行りのものを選ぶ」受け身の姿勢から、「ベーシックな服なんだけれど自分で選ぶ」という姿勢へとスイッチさせています。
さらに、ユニクロのカラーバリエーションは、さまざまな価値観の消費者に合わせた選択肢を提供してくれます。
例えば、「ベーシックなカラーを好む人」には白や黒、グレー、紺色を提供し、常に“人気色”としてオールシーズン展開します。
一方、「季節感を重視する人」には、春に山吹色やライトグリーンを選んでもらったり、秋にはこっくりと深いマスタードイエロー、冬は重厚で落ち着いた色を選んでもらったり。
ユニクロの多色展開商品をよく見ると、季節感覚やトレンドカラーに合わせて絶妙にカラーを入れ替えて販売しています。
そうすることで、例えば同じ「Tシャツ」を販売し続けて顧客を飽きさせず、一人で何枚も購入している「リピーター」を増やすことに成功しています。
売り場作りの工夫
また、「多色展開」はユニクロの売り場作りにも寄与しています。
つまり、商品をただ並べるのではなく、「視覚的に語りかける・誘導する」工夫が見られます。
良く用いられるパターンが、上記写真のように目立つ原色の商品を中央に配置し、シンプルな色の商品をその周囲に並べる戦略。
こうすることで、中心の鮮やかな色彩に目を惹かれ、やがて周りの「売れ筋商品(要はベーシックカラー)」へ視線が移動するようになります。
さらに、売り場の色合いを季節ごとに変えることで、新鮮さや季節感への共感性を生んでいます。
例えば、同じ多色展開の商品でも、夏場には涼しげな青系や緑系の商品を中心に、冬場には暖かみのある赤や茶色の商品を目立つ位置に配置しています。
これにより、消費者はただ商品を買うだけでなく、季節ごとに求めている色に触れる楽しさを体験しています。
カラーバリエーションが生む心理的効果
加えて、色彩の多様性は、心理的な購買行動に強く影響を与えます。
人間の心理として、「たくさんの選択肢がある」というだけで、自ずと安心感をおぼえ、ブランドに対する信頼感を抱きます。
ユニクロの場合、豊富な色展開が「自分のための選択肢が用意されている」という安心感を与えるのです。
加えて、ユニクロの商品は自由に手に取ることが可能です。
その過程で、消費者は「自分で選んだ」という満足感を得ることで、購入体験全体がポジティブなものになり、リピーターになっていくという仕組みです。
「ポロ・ラルフローレン」や「ベネトン」もアイデンティティとした多色展開
ファッションにおけるカラーバリエーション、多色展開は、決してユニクロの専売特許ではありません。
ユニクロよりもはるか前に、多色展開ビジネスを行っていた「先人」たちも紹介します。
ポロ・ラルフローレン
まずは何と言ってもポニーのロゴが有名な、アメリカを代表するポロ・ラルフローレン。
1967年にラルフ・ローレンがポロ・ファッション社を設立し、翌1978年にメンズラインの「ポロ・ラルフローレン」を立ち上げましたが、ポロシャツそのものは1972年に発売しました。
しかし、当時からアメリカでポロシャツの代名詞となっていたラコステとは裏腹に、ラルフ・ローレンのポロシャツは当初、そこまで大きな反響はなかったようです。
ラルフ・ローレンのポロシャツが大きな注目を浴びたのは、1978年のことでした。
ラルフ・ローレンはその年、24色のポロシャツを発売しイメージ広告を打ち出すと、あっという間にブランドを代表するアイデンティティとなります。
元々、売り場づくりを徹底していたラルフ・ローレンでしたが、カラフルなポロシャツが百貨店の目に留まる位置に陳列されることで、テナントとブランドの双方に好影響を及ぼしました。
その後、ポロ・ラルフローレンはニットなども多色展開を行い、上品なブラウンやネイビーから覗くカラフルなニット類が、現在に至るブランドイメージになっています。
ベネトン
また、2024年に日本市場から完全に撤退してしまったベネトンも多色展開が有名なブランドです。
ベネトンはイタリア発の低価格帯ブランドで、日本でも1980年代~1990年代のカジュアルファッションを席巻しました。
まさにリーズナブル×多色展開の立ち位置を、ユニクロに取って代わられたブランドと言っても良いでしょう。
私より上の世代では認知度が高いブランドだと思いますが、日本では2014年に店舗が無くなり、世界市場でも急激に縮小してしまっているブランドです。
1965年に創業したベネトンは36色のニットを発表し、ブランド初期から「ベネトン=多色展開」のイメージを獲得しました。
これは当時、「イタリア製=高級品」というイメージが確立されていなかった時代に、高価格でベーシックなカラーが好まれていた英国製ニットとの差別化を図ったものでした。
また、ベネトンの場合はウールニットの後染め技術の取得に成功し、売れ行きを鑑みて染色・追加生産を行うビジネスで利益を得ていました。
終わりに|ユニクロの多色展開を、一歩引いた目で眺めてみて
今回は以上です。
ユニクロの多色展開は、購買意欲を引き出し、店舗の体験価値を上げるための戦略です。
豊富なカラーバリエーションは、訪れる人に視覚的な楽しさだけでなく、「自分で選ぶ楽しさ」を提供するマーケティング戦略でもあります。
もちろん、戦略云々を抜きにしても、たくさんある色の中から好きな色や気分、季節感から選ぶという行為自体が楽しいものです。
そういった選択を通じて自己肯定感を抱くことも、日々の生活における満足度を上げてくれるちょっとした裏技でもあるのです。
ユニクロでも他ブランドでも、次に売り場を訪れる際、
そんな気持ちで接しつつ、本当に気に入ったら購入を検討してみてくださいね。
おしまい!
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